「一回やらせてください」直談判で勝ち取った扉

── お母さんの言葉を受け、向き合い方を変えたそうですね。

 

むろいさん:言葉だけで説明しても相手の先入観は崩せないので、実際に自分ができることを見せるようにしたんです。あるときは荷物を持ったり、物を運んだり。それでも面接に落ちましたが、私もその都度見せ方をブラッシュアップしていったんです。

 

あるとき、スーパーの品出しの面接で、ペットボトルが詰まった重い段ボールを実際に運んで見せました。それを見た面接官が「偏見を持っていてすみませんでした。こんなに動けるとは知らなかった」と謝ってくださり、無事に採用が決まりました。

 

── これを機に、大学時代はアルバイトのほか、ボランティアなど、さまざまな経験を積み重ね、現在は憧れていた福祉業界で働かれているそうですね。

 

むろいさん:はい。今はグループホームで知的障害のある利用者さんの生活支援員をしています。利用者さんはすごく純粋で、素直に「手、どうしたの?かわいいね」と右手に触れてくれるんです。言葉でのコミュニケーションが難しい方でも、私の手を握って「ニコッ」と笑ってくれたりして。私は指がないからこそ、他の支援員にはない距離の縮め方ができている気がして、現場ではむしろ「ぐーちゃん」に助けられる場面が多いですね。

 

 

かつては「お客さんが驚くから」と、働くことさえも拒まれた右手。しかし今、その手は福祉の現場で、言葉を超えた絆を結ぶかけがえのない存在となっています。

 

「助けてあげなきゃ」という善意が、時に相手を「腫れ物」のように遠ざけてしまう。私たちは目の前の人の「できないこと」だけを見て、その人の可能性を勝手に決めつけてはいないでしょうか。相手の本当の姿を知るために、一歩踏み込む「想像力」を、私たちは持っていますか?

 

取材・文:西尾英子 写真:むろいのぞみ