不器用な父が見せた「どうにかしなければ」という焦り

父と2時間かけて富士山が見えるスポットへ
父と2時間かけて富士山が見えるスポットへ

── 3人での生活が続くなかで、お父さんとの溝は埋まっていきましたか。

 

鉄拳さん:母がいたころは、母を介して父とも話せましたが、二人きりだと緊張して会話が続かない。父もこのままではまずいと思ったんでしょうね。小学校高学年のとき、急に「ドライブに行こう」と誘われました。

 

2時間かけて富士山が見えるスポットへ行きましたが、車中はずっと静かなまま。会話が盛り上がるわけでもない。でも、父が今の僕との関係をこのままにしたくないという気持ちは伝わってきました。

 

── その「焦り」が、関係を変えた。

 

鉄拳さん:はい。父も一人の人間として悩んでいるんだな、と。それ以来、僕もなるべく父と話そうと心がけるようになりました。

 

なので、僕の家族との思い出は、漫画のような幸せな思い出ばかりではありません。どちらかというと「言葉にならない思い」をたくさん抱えてきたように思います。

 

 

誰かのために良かれと思ってしたことが、一番大切な人の心を深く傷つけてしまう。「生活を立て直したい父」と「母を失った傷が癒えない子」。どちらも間違っていないからこそ、その溝は深く、沈黙は重くなります。

 

あなたは、家族という逃げ場のない関係のなかで、どうしても「受け入れられなかった言葉」や、今も忘れられない「あの日の沈黙」はありますか?


取材・文:酒井明子 写真・イラスト:鉄拳