「スター選手も若手も関係ない」大切なのはフラットな目線

── 現場で選手を支援する際、まず何から着手するのですか。

 

大前さん:最初に確認するのは「本人が何を望んでいるか」です。数値目標をただ追うのでなく、「今のチームでいいコンディションを維持し活躍したいのか」「将来メジャーに挑戦するためにどうカラダを変えたいのか」など、選手のニーズに合わせて、必要なサポートを組み立てます。

 

選手が所属するチームとの連携も欠かせません。たとえば、監督がその選手に機敏な動きを求めているのに、選手が勝手に体重を増やして動きが鈍くなっては、選手にとってメリットになりません。だからこそ監督、コーチ、トレーナー、調理担当などと連携を取り、「その選手が一番輝ける状態」を作ることが重要です。私たちの仕事は、単に栄養バランスを整えるために数値を管理することではありません。チーム全体で連携して、その人が一番輝ける状態を作ること。それが管理栄養士としての役割だと思っています。

 

── 選手との信頼関係を築くために、大切にしていることはありますか?

 

大前さん:徹底して「公平であること」でしょうか。実績のあるスタープレーヤーであっても若手選手であっても、同じ行動を取ります。たとえば、若手選手と話しているときにベテラン選手から声をかけられても、「今はこの選手と話しているので、少し待っていていただけますか」と、伝えます。

 

── それは、なかなか勇気がいることのように感じます。

 

大前さん:幼少期から親に言われていた「相手を見て態度を変えない」という教えが根づいているのだと思います。そもそも結果を出し続けるいわゆるスター選手ほど、そうした対応をされても、不機嫌になったりはしないものです。誰とでもふつうに接することで、選手の年齢やキャリアに関係なく信頼をいただけているのだと感じます。

 

 

5年間の専業主婦から、プロ野球の世界へ飛び込んだ大前恵さん。 門前払いされても、3年間沈黙を貫かれても、彼女が手放さなかったのは「相手が誰であっても、一歩ずつ、誠実に」という極めてシンプルなマイルールでした。

 

効率やスピードばかりが求められる今、私たちはつい「最短距離の正解」を求めて焦り、自分を見失いそうになることはないでしょうか。

 

周りに流されず、自分の中の誠実さを守り抜く。その一見「遠回り」に見える一途な姿勢が、最後には誰にも壊せない信頼を勝ち取っていく。大前さんの静かな強さに触れて、今、何を感じましたか。

 

取材・文:西尾英子 写真:大前恵