「自分は何にもやっていない」。10年前、代表合宿で自分より活躍している選手たちの徹底した自己管理を目の当たりにし、衝撃を受けた若き日の鈴木誠也選手。そこから始まった彼の食事改革に、10年にわたり寄り添い続けてきたのが管理栄養士の大前恵さんです。彼女の一字一句をメモし、寮に戻っても確認の連絡を絶やさなかった鈴木選手の貪欲な向上心。異国の地での過酷な環境、不振に揺れる夜…。世界最高峰の舞台で戦う肉体と心を支え続ける、「食の伴走記」の舞台裏に迫ります。

「僕も勉強したい」21歳の鈴木誠也がメモを走らせた、食事改革の原点

── 米大リーグのシカゴ・カブスで活躍する鈴木誠也選手を10年にわたり、栄養面から支え続けてきた大前恵さん。広島時代から続くその深い信頼関係は、どのように始まったのでしょうか。

 

大前さん:初めて出会ったのは、2016年の日本代表合宿でした。約20日間の合宿中、自分よりも活躍している選手がスーツケースいっぱいにサプリメントやトレーニング教本を詰め込んで持ち込んでいるのを見て、強い衝撃を受けたそうです。「これだけ活躍している人がここまで頑張っているのに、自分は何にもやっていない」と。

 

そのときに鈴木選手から「僕も食について勉強したい」と相談を受けました。当時の彼は「ご飯=タンパク質が多く摂れる」という感じの知識でしたが、とにかく向上心が凄まじかった。私が伝えたことをすべてメモに取り、寮に戻ってからも「これで合っていますか?」と、連絡がくる。野球のために「今できることはすべてやる」という前向きな姿勢が、10年の伴走の原点になりました。

 

── 具体的なアドバイスは、どのようなものから始めたのですか?

 

大前さん:寮生活だったので、課題は食事が出ない休日でした。彼が「こんなのを買いました」と報告してくる食材に「もう少し肉のおかずを足しましょう」「乳製品とフルーツも加えて」と、できることを少しずつ増やしていきました。当時の目的は筋力アップでしたが、何よりも大切にしたのは、ムリなく習慣化すること。

 

取り組みを続けるなかで、彼が「筋肉系のケガがほとんどなくなった」と、実感し始めたのが大きな転機でした。「食べるもので体が変わる」という確信を得てからは、食への向き合い方に迷いがなくなったようでした。