A4用紙4枚の手紙は「無視」。正論が響かない現場で知ったDXの真意

── 楽天で務めた後、お父さんの体調不良を機に家業を継ぐ決意をされます。お父さんは喜ばれたのでは?
森さん:全然です(笑)。自分なりに事業を理解し、父にも納得してもらったうえで入社したいという思いがあり「寿商店を継ぐ覚悟があるから、入社させてほしい」とA4用紙4枚にもなる手紙を書いたんです。でも、父からの返事はいっさいなし。当時は人事担当がいるような組織ではありませんでしたから、父も未経験の私をどう配属していいかわからなかったのでしょう。ただ、父はその時の手紙をいまだに大事に財布に入れているみたいです。思いだけは伝わっていたのかな、と思います。
── 結局、お父さんから返事がないまま現場にアルバイトとして入ります。
森さん:古参の従業員さんに「社長の娘が帰ってきた」とあまりプレッシャーや負担にならないよう、遠慮がちに働き始めました。
── 当初は「楽天みたいな会社にしたい」とIT化を進めようとして、現場と衝突があったそうですね。
森さん:楽天みたいな会社にしたい、単純にIT化したい、というわけではなく、働きやすい大企業での経験から、家業でも「組織づくりをしたい」という気持ちがありました。当時は電話受注と紙の帳簿などを代表する超アナログなバックオフィスに、現場も父しか対応できないことも多いような、かなり属人化した体制になっていました。父の負担をもっと減らしたい。わたしが承継していくためには組織化をある程度しないとならないし、時代の変化とともに事業も変化していく必要がある。そう思って受発注システムやポスレジを導入するなど、バックオフィスだけでなく現場にデジタル化を推進をしていきましたが、現場のDX化を進めていくにつれて、特に職人さんたちが「うまくついていけていない」ことがわかりました。自分が「正論」だと思って進めていた組織化が、現場に響いていないのではと感じました。
── どの現場でも起こりそうな問題ですね。森さんはその違和感をどう解消していったのですか。
森さん:劇的な変化ではなく、自分が現場に出て日々の現場課題を体験し、運用改善を重ねたことと、デジタル化になじめない現場のスタッフのストレスを軽減するようなコツコツとしたアナログなサポートの積み重ねです。システムの使い方に現場が戸惑っていれば説明を工夫し、一緒にやってみる。使う側のストレスを極力減らして現場の違和感を取り除いていきました。
今思うのは、単にデジタル化効率化すること・大企業と同じような組織にすることが正解なのではなく、中小企業だからできること。自社がお客様に提供している価値をしっかりとした軸にしつつ、それを守り未来につなげていくためのDX化でなければ、家業が守ってきた「本来の価値」を損なってしまうと気づきました。
「なぜお客様に愛されてきたのか」「うちが積み重ねてきた価値は何か」という本質を考え、うちのアナログ(職人技術やお客様サービスなど)の魅力を活かすためのDX化を目指すことに切り替えました。現場のみなさんに「便利だ」と感じてもらえている、とDX化の成功実感が持てたのはそれから2年経った頃です。