「ありのままを愛せ」という正論への、静かな反旗

谷岡紗帆
学校で笑顔をみせる紗帆さん

── 活動を続けるなかで、周囲から「今のままの紗帆ちゃんを受け入れてあげれば?」と言われることもあるそうですね。

 

谷岡さん:言われます。もちろん、今のままの紗帆を100%愛しています。でも、「ありのまま」という言葉に、僕は違和感があるんです。もし将来遺伝子治療で治ると言われても、親としては今の紗帆じゃなくなってしまう気がして治療を迷うかもしれない。でも、僕が娘と入れ替わったとしたら、おしゃべりもしたいし、友達とも遊びたいって思うはずなんです。

 

──「娘が話せたら、治してと言うはずだ」という仮説ですね。

 

谷岡さん:そうです。僕が満足していても、娘は不自由を感じているかもしれない。その可能性を無視して「今のままでいい」と言うのは、親のエゴではないか。だから僕は、たとえ紗帆自身の治療が間に合わなくても、次の世代のために闘い続けます。

「僕らの代で、この闘いを終わらせる」

谷岡紗帆
進行性の難病「レット症候群」と戦う谷岡紗帆さん

── 15年にわたる活動が、ようやく形になりつつあります。


谷岡さん:独自に開発したアプリには400人の患者が登録され、日本でも治験が始まりました。僕らが動かなければ、製薬会社も研究者も動かない。「誰かがやってくれる」を待っていたら、娘の人生は終わってしまう。

 

── 同じ難病の子を持つ家族へ、伝えたいことはありますか。

 

谷岡さん:「僕らの代で、レット症候群との闘いを終わらせましょう」と言い続けています。娘が生きた証を、未来を変える力にしたい。

 

いつか治療法が確立されたとき、それが紗帆がこの世にいた最大の意味になると信じています。

 

 

「ありのままの姿を愛してあげて」。障がいを持つ家族に対し、世の中ではそんな善意の言葉がよくかけられます。

 

しかし谷岡さんは、その言葉の裏側で、「もし娘が話せたら『お父さん、治して』と言うのではないか」という、どこまでも切実な仮説を背負い続けています。今の幸せを噛み締めながらも、次の世代のためにこの闘いを終わらせようとするその姿。

 

「わが子のために、どこまで想像し、どこまで背負えるか」。谷岡さんの執念に触れて、あなたが家族に対して抱く「本当の願い」について、改めて考えてみませんか。

 

取材・文:林優子 写真提供:谷岡哲次