言葉を持たず、座ることもできない。進行性の難病「レット症候群」の娘・紗帆さんは18歳になりました。「今のままで十分幸せ」と語りながらも、サラリーマンを続けながらNPOを運営し、同時に福祉事業と不動産業も行い、4足のわらじで走り続ける父・谷岡哲次さん。彼を突き動かすのは、世間の正論に対する「静かな反旗」でした。「ありのままを受け入れて」という周囲の優しさに、あえて抗う理由。「もし娘が話せたら、私に何を願うか」。想像を超えた親の愛が辿り着いた、あまりに切実な仮説と、18年の軌跡に迫ります。
「オキシトシン」と「4足のわらじ」。父を支える二つの顔

── 2歳のときに、運動機能や言語機能が退行してしまう難病「レット症候群」と診断された紗帆ちゃん。今はどうされていますか。
谷岡さん:18歳、もう成人ですね。リハビリは頑張りましたが症状は進み、今は自力で座ることもできません。15歳のときには側弯症が悪化し、背骨をボルトで固定する大手術も受けました。
── コミュニケーションはどのように。
谷岡さん:話すことはできないので、アイコンタクトです。表情から「今、嬉しいんやろうな」「気分が悪いのかな」と想像します。運動機能は失われてしまいましたが、幸い笑顔は残っていて、よく笑うんです。ちょっとしたことですぐに笑う「ゲラ」でね。「ゲゲゲの鬼太郎」の歌を歌うと、百発百中で笑います(笑)。
── その笑顔を守るために、文字通り身を粉にして活動されていますね。
谷岡さん:サラリーマンをしながら、職場の近くに重度障がい者のための生活介護事業所「スマイルキャンパス」を開所、当面の運営資金のために不動産事業も行い、NPOの理事長として研究支援も行います。紗帆が通えるように、いずれは住んでいる地域にも事業所を作りたいと思っていますが、利益を出すのは難しいですね。
「忙しくて大変でしょう」と言われますが、毎晩娘と一緒にお風呂に入り、寝顔を見るだけで疲れは吹き飛びます。僕にとっては、彼女の笑顔が最強のエネルギー源(オキシトシン)なんです。紗帆がいてくれるおかげで夫婦の絆も深まったよね、と妻とはよく話しています。