「世間の目」抵抗を押し切った、父の決断

── 奥さまとの間に温度差はなかったのでしょうか。
谷岡さん:ありました。僕は「広報としてメディアに露出しなければ、寄付は集まらない」と確信していましたが、妻は娘を世間の目にさらすことに抵抗があった。「まだ身近に伝えられていない人もいるのに、なぜこんなことを」と揉めたこともあります。
── それでも足を止めなかったのはなぜですか。
谷岡さん:人の目を気にしていたら、娘の未来は1ミリも変わらないからです。周りに何を言われても、研究費が集まらなければ治療法は見つからない。結局、僕が強引に進める姿にあきらめてついてきてくれた形ですが、新聞やテレビを見た近所の子どもたちが手紙やトトロの折り紙を届けてくれる姿を見て、妻の心も少しずつ変わっていきました。
── 現在、紗帆さんは18歳。谷岡さんの活動もあり、日本でも治験が始まっています。
谷岡さん:運動機能は失われても、娘の笑顔は健在です。あのとき、新幹線で「見切り発車」をした自分を後悔していません。絶望を嘆く暇があるなら、仕組みを変えるために動き続ける。それが、僕が見つけた父親としての責任です。
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治療法がないと言われたとき、あなたなら「運命を受け入れる」道を選びますか、それとも「仕組みを変える」戦いに挑みますか。
お祓いにすがるほどの絶望を経て、あえて「5億円を集める」というあまりに高い壁に挑むために、家族を巻き込み走り出した谷岡さん。その「見切り発車」は、もはや独りよがりな暴走などではなく、絶望の底で彼が唯一見つけ出した「父としての正解」でした。
わが子のために、嫌われることを厭わず決断を下せるか。谷岡さんの生き方に触れて、あなたが思う「本当の強さ」は何ですか。
取材・文:林優子 写真提供:谷岡哲次