「家族だから、ママって呼ばせていただいてもいいですか?」。ウクライナ出身初の幕内力士・獅司関がそう慕うのは、所属する雷(いかづち)部屋のおかみ・垣添栄美さん。かつて3度の日本一に輝いた元相撲女王は、2023年に雷親方が入間川部屋を継承したのち、弟子たちに愛を持って接してきました。そして、その背中を見て育った2人の子どもたちも、みずからの意志で相撲の道へ歩み始めています。

部屋継承時に「弟子は家族」と伝えたら

垣添栄美 獅司関
雷部屋のおかみ・垣添さんと獅司関

── 2023年からおかみさんとして働かれていますが、雷部屋に所属するウクライナ出身の獅司関は垣添さんを「ママ」と呼んでいるそうですね。本物の家族のように頼りにされていることが伝わってきます。

 

垣添さん:2023年2月に入間川親方から部屋を継承したとき、雷親方は弟子に「もう家族なんだから何かあったら言えよ」と話をしたんですが、そのときに獅司が「お願いがあります。家族だから(おかみさんを)ママって呼ばせていただいてもいいですか?」と本物の家族のように頼りにしてくれたんです。

 

継承した当時、日本のしきたりや社交辞令はもちろんのこと、大相撲の世界での独特な生活環境にも馴染んでいませんでした。海外では「YES」と「NO」をはっきり伝えるのが普通なので、曖昧に答えることもできず、そのあたりを教えるのは大変でしたね。継承したばかりのころは母国にいるお母さんに逐一報告している節もありましたが、その役割を今は自分が担っている感じです。

 

── 10代の力士も多いと思います。人さまのお子さんを預かるという責任感も大きいのでしょうか。

 

垣添さん:ちゃんこ(力士が作る食事のこと)の食事は番付順なんです。私も女子相撲をしていた学生時代はそうでした。だから、どうしても下の順番になると、食べ物がなくなってきてしまって。部屋には相撲経験がない10代半ばの子も入ってきますが、番付は当然下になるので、最後まで食べられない。でも入門直後は給料もない。親御さんからしてみると、それならどこでご飯を食べられるのかと心配ですよね。だからうちの部屋ではしっかり食事が摂れるようにはしています。普段から自分の子どもと同じような気持ちで接していますし、何かあったら言ってほしいし、頼ってほしいとは伝えていますね。

 

── そこには垣添さんのどのような思いがあるのでしょうか。

 

垣添さん:相撲界は厳しい実力主義の世界で、待遇は番付によって大きく違います。うちの部屋に限りませんが、入門した力士がすべて関取になれるわけではありませんし、給料がもらえるようになる前に辞める子もいます。でもうちの部屋にいたからには何かを学んでもらいたいと考えていますし、相撲界にいたからこそ得られるノウハウを身につけてもらいたいと思っているんです。