今、一緒に酒を飲む人が本当に「いい人」なのか

── 水産業でチャレンジし続けた理由はどんなことにあるのでしょうか?

 

坪内さん:萩では漁師たちが「漁獲量が減って、自分たちの生活が大変」と言いながら、魚があり、野菜があり、米もあり、米から作った味噌もあるという環境で、お金がなくてもみんな笑って生きていました。そのときに「ここって本当に豊かな場所だな」と思ったんです。だからこそ「この人たちと一緒に未来をつくりたい」と強く思いました。私自身とは縁もゆかりもなかった土地だけど、息子が生まれた場所です。経済的に困窮してみずから命を絶つようなふるさとじゃなくて、たとえ厳しいなかでも、助け合って豊かに生きていけるような場所を守っていきたいと思いました。 

 

── このビジネスを軌道にのせるまで、いちばんハードだったことは何でしたか?

 

坪内さん:商品と売り先の構築のバランスがやはりいちばん難しかったです。たとえばお客さんからのオーダーを100件持ってきたとしても、台風が来たり雪が降ったりすると、1週間から10日、下手したら1か月先まで商品を出せないこともありました。そうかと思えば、50トンから100トンの魚がドカーンと上がってきたのに、売り先が100件しかなければ「魚が余ってしまう…。どうしよう」ということが起こるわけです。自然相手の商売でこのバランスをどうするかが本当に難しかったですね。

 

── だからこそ、商売を安定させるには漁師さんたちとの足並みを揃えることが欠かせなかったのですね。

 

坪内さん:そのために何度も何度も議論になりました。たとえば「今日みたいに寒い日はもう出荷やめよう」「今週は10箱だけ販売して、あとはみんなで休んでお酒飲んで楽しく生きよう」っていうような声も出る。でも私は、「いま目の前で一緒にお酒を飲んでくれる人が『いい人』なのか、それとも10年後、50年後にこの島で漁業がちゃんと続くことをコツコツ実現しようとする人が『いい人』なのか、どっちだろう」って思うんです。

 

「販路は20軒くらいに絞って、ちょうどいいところで止めてほしい」っていう漁師さんたちの気持ちもわかるけど、オーダーが100件入ってきているのに「出さない」なんて選択は現実的じゃない。そう言うと、「お前は現場のしんどさを何もわかっとらんけぇ、そんなことが言えるんじゃ!」って怒られる(笑)。でも、こうしたやりとりの繰り返しが、持続可能な漁業を一緒につくっていくうえで、欠かせないプロセスだったんじゃないかと思います。