「おい、いい加減にせぇよ!」漁師との軋轢

── 漁師さんのウィンドブレーカーを破るほどの取っ組み合いケンカになったこともあったそうですね。
坪内さん:最初に私に仕事を依頼してきた漁師の長岡とケンカになり、長岡が「もうお前とはつき合っていけん!」と捨て台詞を吐いて立ち去ろうとしたことがありました。「ちょっと待てよ」と長岡のウィンドブレーカーをとっさに掴んで引き止めようとしたときに、ビリビリと破れてしまって。とはいえ、もともとボロボロのウィンドブレーカーだったので、引っ張ったら簡単に破れるような感じだったんですけどね。
長岡は自分の服が破れたことにびっくりして頭にカッと血が上り、「おい、いい加減にせぇよ!おらおら!」となって、争いがデッドヒートしました。でもこうしたケンカは日常茶飯事だったんです。たとえば「眠い」「腹が減った」「疲れてるけん、会議の回数減らせ」みたいな漁師たちの不満と「でも話し合わないと何も決まらないでしょ!」と食い下がる私とのぶつかり合い。
「会議するならおにぎりぐらい用意しろ!」と怒られて、「そんなの知らんよ、お昼食べてから来ればいいじゃん!」と返す。そういうやり取りがいつものようにあって、ついにブチッと糸が切れたような瞬間でした。
でも、お互いに求めているからケンカになるのだと思っています。本当に辞めるつもりだったら、会話にもならないし、黙って出ていくでしょう。
── かつてはCAを目指して名古屋外国語大学へ通い、漁業とは無縁の半生だったと思います。漁師さんたちの荒っぽい男社会で、どのようにリーダーシップをとっていったんですか?
坪内さん:漁師と仕事するようになってからしばらくは名古屋弁で話していたんです。「お客さん、今日電話してくるって、言ってたやん?」と言うと、漁師に「その『なんとかやん?』って、やめぇよ。めっちゃバカにされてる気持ちになるわ」と言われました。ことあるごとに「服装が違う」「言葉が違う」と、私の外見や内面などを責めてくるので、言葉は100パーセント(山口の)萩弁や大島弁に合わせるようにしたり、服装もスーツではなくジャージや長靴にしたりして工夫をしました。
── 漁師さんと同じ土俵に立つために、言葉や振る舞いを合わせるようになったんですね。
坪内さん:講演会などでお話しさせていただくと「メディアで坪内さんを見て『どんな怖い人が来るのか』と思っていましたが、実際は細やかでやさしいんですね」と言われます。私だって、365日24時間ガミガミ怒っているわけじゃないんです(笑)。
ただ、こうした振る舞いをしているうちにひとつわかったことがあります。水産業界では「声が大きくて、ひとつのことを最後まで言い続けた人が勝つ」ということです 。日本中どこの浜に行っても通用する業界の商慣習のようなもので、これができないと漁師さんと話はできないと思ってもいいくらいです。漁師さんと話をまとめるには、大きい声で粘ることが必要なんだと学びました。