「里子の虐待死」を防ぎたい…里親経験を伝承する今
── 現在は小春さんも一緒に、里親の経験を次世代に伝えるプロジェクトを進めているのですね。活動について教えてください。
齋藤さん:私が里親支援活動を始めたのは、里子が虐待死した事件がきっかけです。当時の私は、里親として限界を感じることもありましたが、「里親サロンでの先輩との繋がり」が命綱となり、どうにか踏んばることができました。この経験から、里親同士が支え合うコミュニティの必要性を強く感じ、サロン活動に10年ほど力を入れて取り組みました。その後、東京大学が主催する、地域課題を解決するコンテスト「チャレンジ!!オープンガバナンス2016」でのグランプリ受賞をきっかけに、一般社団法人グローハッピーを立ち上げました。

具体的な活動としては、子どもの声、里親の経験、専門家の知見をもとに開発した里親向け子育て研修「グローハッピー12 Steps」があります。里親家庭で育つ子ども、里親、専門家、行政職員など、700人以上の意見をもとに見つけ出した、子育てでいちばん重要な関わり方「里親の子育てスキル12ヶ条」をベースに、自分と里子専用のオリジナルな子育てスキルをつくるワークショップです。子育てをひとつの「研究」として捉え、観察、プランニング、実践、振り返りを行うんです。子育てのPDCAサイクルを通して、自分らしい子育てを追求していくのが目的です。
私は研修の開発者とファシリテーターとして関わっていますが、受講者の皆さんの観察力と、そこから生まれるアイデアの素晴らしさに、毎回深く感動させられています。それぞれの家庭にフィットする子育てがあることを知ると、お互いの取り組みをリスペクトする関係が生まれ、受講者同士が親戚のように仲よくなっていくんですよ。
2025年はキリン福祉財団から活動にご支援いただけることになったほか、東京大学大学院の澁谷研究室にもバックアップしていただく体制が整いました。現在は、里親の子育てスキルをデータベース化し、オンライン上に「子育て伝承の場」をつくるプロジェクトも進行中です。全国の経験豊富な先輩里親の養育スキルの深掘りインタビューを行い、データベースの土台となるデータ収集をしています。小春もインタビューに同行し、子どものインタビュー調査に向けて準備しているところです。
研修カリキュラムをつくるのも、データベースをつくるのも、大人だけでなく子どもの声をもとに進めていくのが私たちグローハッピーが大切にしていることです。なにしろ、子育ては「子ども」がいてはじめて、スタートすることなので。
── 活動の幅をますます広げられているのですね。
齋藤さん:私たちの活動の根底にあるのは、子どもが幸せに「子ども時代」を過ごせる日本にしたいという願いです。データベースの構築によって、里子虐待死事件が2度と起きないよう、里親養育の実態と望まれる支援を全国に伝えていくこと。「グローハッピー12 Steps」の子育て研修によって、個別の最適解となる子育てスキルづくりをサポートし、里親子の関係悪化による「措置解除」(里親としての支援が終了・消滅すること)を防止することを目指しています。
いっぽうで、子どもたちの声に耳を澄ますと、生みの親がいかに特別な存在かということに気づかされます。子どもたちの願いは「実親の元ですくすくと幸せに育つ」ということなんです。
なので、次の一歩として、「グローハッピー12 Steps」の研修受講を里親のみならず、子育て中の方向けにも広げていこうと計画しています。そして、いずれは里親制度自体が必要とされなくなる日本になること。それこそが、私たちの掲げる大きな目標です。小さな団体ではありますが、親と子どもが幸せに育つ子育て環境を日本に広げられたらうれしいです。
取材・文/小松﨑裕夏 写真提供/齋藤直巨