里子の小春さんと出会って16年、里子の気持ちを聴いて考えるを繰り返し、絆を深めてきた里親の齋藤直巨(なおみ)さん。「私なんて死んだほうがいい」と口にした小春さんが、「生きててよかった」と語るまでの道のりと、「里親による里子の虐待死」を防ぐために齋藤さんが立ち上げた活動の今をお聞きしました。
姉妹の絆を育んだ「棚田式子育て」
── 現在、齋藤家には24歳の長女、20歳の次女、そして海外にルーツをもつ19歳の里子の小春さんが同居し、にぎやかな毎日だそうですね。16年間、実子と里子を同時に育ててこられた日々は、さぞかし大変だっただろうと思います。子育てにおいていつも心がけていたことはありますか?
齋藤さん:とにかく実子のケアは大事にしていました。最初のころは特に、レスパイト・ケア制度(委託児童を養育している里親家庭が、一時的な休息のための援助を必要とする場合に、ほかの里親、乳児院、児童養護施設などを活用して子どもを預けること)を使って、実子2人を休息させる、思いっきり甘やかすという時間を意識的につくっていましたね。
「実子は恵まれているんだから、少しぐらい我慢させていい」という考え方の里親さんもいました。でも、実子も里子も子どもという立場は同じ。どちらも思いっきりかわいがってほしいと思うのではないかと考えていました。一般的なきょうだいでも、「長男や長女が頑張るのは当たり前」というのも悲しいし、頑張れないものだよなと。中学生の多感な時期から自分なりに「子育てってなんだろう?」と思考を巡らせ、研究を重ねてきて、たどり着いたのが、「棚田式子育て」という考え方でした。

── 聞き慣れない言葉ですが、「棚田式子育て」とはどういうものですか?
齋藤さん:私が勝手に名づけたものなんです(笑)。棚田の水を子育ての愛情に見立てて、上の子から順にかわいがって愛情で満たし、それから下の子に愛情を注いでいく…という方法です。
わが家の場合は、次女が生まれたときに長女がしっかりと「赤ちゃん返り」をしたんです。「次女を早く寝かしつけて、長女との時間をつくらなきゃ」と必死だったのですが、そうなると長女がわざと話しかけて起こしてしまったりして…。空回りする日々に、思いきって戦法を変えてみました。次女が多少泣いていても長女が「構って」と来たら、まずは長女と全力で向き合うようにしたんです。すると、驚くほど早く長女の心が満たされたようで、「赤ちゃんが泣いているから、もう行っていいよ」と自分から譲ってくれるようになりました。
その経験から、長女は「次女は自分の親を盗る存在ではない」と安心できたのだと思います。それからは敵対視するどころか、「世界でいちばんかわいい妹」として大切にしてくれるようになりました。そんな姉の背中を見て育った次女もまた、「世界でいちばん大好きなのはお姉ちゃん」というほどのお姉ちゃん子になりました。
この愛情のバトンを、里子として迎えた小春にも同じように繋いでいきました。新しく家族に仲間入りをした里子にはどうしても手をかけることが増えます。そんなときにもまずは長女、次女のケアをし、自然と愛情の循環が生まれるように調整していったんです。その結果、次女がいちばん好きなのは長女、小春がいちばん好きなのは次女という、幸せな連鎖ができあがりました。そのおかげで、小春を含めた三姉妹は今も本当に仲よしです。
── 小春さんは実子に毎日のように試すような行動をしていたと聞きましたが、その反応は?
齋藤さん:実子は小春を特別扱いすることなく、感情をそのままぶつけ合い、本気で怒ってケンカしていましたね。子どものほうが信頼関係を築くうえではシビアなので、少しでもズルいことをすると許しもらえないんですよね。反省して謝ったり、行動を改めたりしないと仲間にしてもらえない。
里子だからと保護しすぎたらその信頼関係を築けないなと感じたので、子ども同士のぶつかり合いを見守りました。小春に対しては、ときにはなんで怒られたのかを解説したり、どうしたら許してもらえるかを一緒に考えたりしていました。
衝突するなかで、自分を守るために嘘をつくこともあったのですが、すべての情報を共有して話し合いをすることで、だんだんと嘘をつく必要がないことも理解していったようです。
── 小春さんが直巨さんを信頼できるようになったのはいつごろですか?
小春さん:徐々に信頼できるようになっていったとは思うのですが、自分のなかで大きかった出来事は、小学4年生のときに家出したことです。
家出する前の週に、なおさんにひどく怒られたんです。原因は、サッカーに通う際に持たせてもらっていた「もしも」のためのお金を使いこんでしまったうえ、その報告をしていなかったことでした。その週末には家族や親戚みんなでカラオケに行ったりもしていて、なおさんにはもう許されていたのだと思いますが、いま振り返ると、私のなかではまだ終わっていなかったみたいです。
家出する日の夕方、姉にも叱られて、そのとき衝動的に家出しました。19時に家を出て、友達の家で見つかったのが22時。途中、なおさんが必死で探している姿を見て、「ヤバい、怒られる」と思ってすぐにその場から逃げたんです。
でも後から、周りの人になおさんが泣きながら私を探していたと聞き、「あぁ、自分はものすごく愛されているんだ」と実感しました。なんて馬鹿なことをしたんだろうと反省して、それをきっかけに家族を試すような言動も少しずつ減っていったと思います。
齋藤さん:そのあとは小春の態度が少しずつ落ち着いていきましたね。家族に相談をすることも増えていき、長い時間をかけて信頼関係を築いているんだなと感じました。