里親として活動する齋藤直巨(なおみ)さんは、16年前に3歳の小春さんを里子として家に迎えました。ところが、愛着の課題からくる嘘や吐き戻しといった行動に悩み、「かわいいと思えない」と心が折れそうになる日々が続いたといいます。いったいなぜ、今まで里親を続けられたのか。当時のことを、現在19歳になる小春さんとともに振り返ってもらいました。

実子とはまったく違う、愛着の課題山積みの子育てに疲れて

── 齋藤さんは第2子を流産したことがきっかけで、事情により実親と暮らせない子どもを家に迎えて育てる「里親制度」に興味をもったそうですね。短期里親を経験したのち、長期の里子として迎えたのが、今も一緒に暮らす当時3歳の小春さんだったと伺っています。小春さんが海外にルーツをもつ子だと事前に知らされていたのでしょうか?

 

齋藤さん:はい。簡単な生い立ちとともに説明を受けていました。初めて写真を見たときには「あぁ、たしかに海外にルーツがあることがはっきりわかる顔立ちだな」と思いました。ただ、身近にアフリカ出身の子育て仲間がいたこともあり、里子として迎える子が海外にルーツをもっていることに特に違和感やハードルは感じませんでした。

 

── ふたりの実子(現在24歳の長女と20歳の次女)も育ててきて、違いは感じましたか?

 

齋藤さん:小春は長女が小学2年生、次女が4歳のときにわが家にやってきました。実子の子育てもそれなりに大変さを感じていたけれど、小春を育て始めて、これまでの子育てはよっぽど楽だったのだと思い知らされました。

 

──「よっぽど楽だった」と感じたのは、具体的にどんな点だったのでしょう? 

 

齋藤さん:嘘をつく、物を壊す、食事のたびに吐き戻すなど、信頼関係があれば起こらないようなトラブルを、数えきれないほど経験しました。

 

たとえば、一生懸命作ったご飯を吐き戻されてしまうんです。「無理なら食べなくても大丈夫だよ」とやさしく声をかけても、小春は「いや食べる」と言い張って、その後に吐いてしまう。当時はどう対応すればいいのかまったくわからず、私の言葉を信じてもらえないことも本当に悲しかったです。本来、お互いの信頼関係のもとで、「本当のことを言えば解決できる」と思えていれば、嘘をついたり、食べられないものを無理に飲み込もうとしたりする必要はなかったはずなんですよね。

 

小春さん:納豆とプリンが嫌いだったのですが、当時はそのことを隠して頑張って食べていました。乳児院にいたときから家族に憧れていて、お姉ちゃんたちが食べているものを食べれば仲間になれると思い込んでいたんです。

 

齋藤さん:結局、納豆は1年半、プリンは2年、食べ続けては吐いていました。

 

なかでも多かったのが、「本当に自分を受け入れ、愛してくれるのか?」という確認です。小春は私たちが嫌がることを的確に見抜いて試してくることで、こちらが信頼に値する人間かどうかをはかっているようでした。その際、小春は自衛のために「自分は悪くない」という振る舞いをするので、周囲には私のほうが悪者のように映ってしまい、私が叱られることもありました。大切なことを伝えようとしても攻撃だと受け取られることもあり、本当に対応が難しかったです。