「俥夫=男性」だけではない業界革命を
── 子どもたちが働くのを楽しみにするというのは、希望に満ちています。
西尾さん:まだ何にも染まっていない子どもたちが、「自分たちには明るい未来が待っている」と純粋に思えたら、世の中がいい方向に変わっていきそうですよね。
楽しく仕事をするためには、働き方も大事です。どんなに「お客さまのため」と思っても、社員の事情もそれぞれです。たとえば介護中であれば、毎日決まった時間に仕事をする働き方は難しい。働き方はどんな形であってもいいと思います。「お客さまのため」に仕事をするためには、社員が仕事をしやすい環境を作ることが大事だと感じています。

──「人のため」というのは、お客さまはもちろん、一緒に働く仲間たちにも通じるのですね。
西尾さん:人力車業界は男性中心ですが、最近は女性俥夫も増えました。彼女たちが出産後も安心して働ける職場を作ることも、僕の責任です。女性社員たちは「もしこの先、結婚や出産でライフスタイルが変わっても、ずっとこの仕事を続けられるのか」と、心配していることがあるんです。だから、制度を整えるのはもちろんのこと、当社では、女性がイキイキと働く姿をSNSで積極的に発信しています。
元気に人力車を走らせる女性たちは、その姿だけで注目を集めます。すると、彼女たちに憧れて女性が増えて俥夫をめざすようにもなります。業界全体に女性が増え、産休・育休制度を始めとしたさまざまな制度も整っていくに違いありません。
僕たちが目指しているのはお客さまに楽しんでいたくことだけではありません。『働くことの楽しさ』を多くの人に伝え、社会全体を明るくしたいんです。仕事に対して前向きな思いを持つことが、結果的には自分自身の幸せにつながると信じています。
取材・文/齋田多恵 写真提供/西尾竜太