緊張感ある現場 メンタルを保つのが大変だったけど

── その後、無事に国家試験に合格され看護師になりました。小さく生まれたり疾患があったりして治療が必要な赤ちゃんが入院するNICU(新生児集中治療室)に配属されたそうですね。

 

蛯原さん:看護師になってからは、シフト勤務で生活していました。1日3交代で、日勤から夕方まで、夕方から夜中まで、夜中から朝方までの3つの勤務パターンがありました。私が働いていたNICUには、400グラムで生まれた赤ちゃんもいて、赤ちゃんの体には人工呼吸器や点滴がついていてモニターで管理しています。

 

赤ちゃんの酸素レベルが下がったり、心拍が変わったりするとアラーム音が鳴るのですが、「アラームが鳴ったらすぐに行って状況を瞬時に判断!」という環境で、緊張感が常にある職場でした。それに、入院の方の連絡が来るのも突然で、そのあとすぐに準備に取りかかるのですが、到着するまで「どうか無事でありますように」と祈るような気持ちでいたのを覚えています。勤務が終わって帰宅してからも、寝るときも、夢の中でも頭のなかでアラーム音が常に聞こえるような気がしていました。

 

── 命を預かる職場で、気が休まらないことも多かったと思います。

 

蛯原さん:病院の敷地内に看護師寮があってそこで生活していたのですが、徒歩数分ですぐに職場に行ける環境だったのはありがたかったです。お休みの日にみんなでファミレスに行って話すことが息抜きでした。夜勤明けでそのまま遊園地や旅行に行ったことなどもいい思い出です。

 

── NICUの勤務で、特に大変だったのはどんなことでしたか。

 

蛯原さん:心臓や遺伝子系の病気を持っている赤ちゃんが亡くなられることもあって、悲しみを引きずってしまうこともありました。親御さんの方がもっとつらい思いをされていることはわかっているのですが、自分のメンタルを保つことが大変でした。ご家族のお話をうかがったり、寄り添ったり、勤務時間に関係なく一緒に過ごさせてもらって、ご家族の気持ちに共感して傾聴する時間を作るようにしていました。

 

悲しい場面に立ち会うこともありましたが、小さく生まれた赤ちゃんが成長して退院する姿を見られたときの感動は大きかったです。初めてママが赤ちゃんに触れる瞬間や、初めて抱っこできたとき、初めてたくさんミルクが飲めたときなど、赤ちゃんの初めてに出会える経験がたくさんあって。今日できるようになったことをご家族と共有できて、大切な時間を一緒に過ごせることの喜びを感じていました。

 

ご家族と赤ちゃんの面会の時間は決まっているので、親御さんがいないときの様子なども日誌に書くのですが、「今日はこんなことがあったんですよ」とお伝えすると、ご家族の笑顔が見られるのもうれしかったです。

 

── ご家族と一緒に成長を共有できる、あたたかい空間ですね。

 

蛯原さん:NICUは「ありがとう」という言葉で溢れていると思いました。退院してご自宅に送り出すときもみなさんから感謝していただいて。NICUを卒業した子はフォローアップ検診で外来に来る機会があるので、退院の際に「またお待ちしています」とお声がけするのですが、その後も成長した姿を見られるのもうれしかったです。

 

勤務していた病院の近くで開かれるお祭りに今も行くことがあるんですが、「こんなに大きくなったんです!」と、ご家族が話しかけてくださることもあって。ずっと覚えてくださっていることも、「あの子がこんなに大きくなったなんて」と成長を見られることも感動します。私と友里も生まれたあと、保育器に入っていたのですが、巡り巡ってNICUで働けたことは本当にいい経験になったと感じています。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/蛯原英里