批判されても譲れなかった歌詞の「2文字」

辛島美登里
ひたちなか公園のネモフィラを観に行ったとき

── 当時は、時代的に女性が男性についていくというか、男性にすがるような歌詞が多かったような気がします。

 

辛島さん:そうですよね。音楽業界も男性社会でしたし、女の人が男性を忘れられないとか、未練があるような曲がいいような雰囲気があって。歌詞に♪さよならを決めたことは けっしてあなたのためじゃない♪とありますが、はじめは、「あなたの『ため』」という言葉が強すぎないか。女性がそんなこと言うなんて、という意見もあったんです。でも私は「あなたのために別れを選んだわけじゃない」ということを言いたくて、この曲を書きました。

 

この曲はドラマ『クリスマス・イヴ』でも流れた曲ですが、レコード会社のプロデューサーさんが間に立ってくれて、1番は『あなたの「ため」じゃない』、2番は『あなたの「せい」じゃない』と提案してくださって落ち着きました。意見をつっぱねるとドラマのタイアップが揺らぐくらい大きなことだったようですが結局、丸くおさまりました。

 

── 名曲の裏にそんな逸話があったとは。辛島さんはデビューから35年以上経って、今どんなことを思いますか?

 

辛島さん:私は歌手になろうと思ってこの世界に入ったわけではなくて、曲を書いて、みなさんに音楽を届けられたらと思ってこの業界に入ってきました。だから、自分が舞台に立ってパフォーマンスをすることにいまだに違和感があります。でも、違和感があるからこそできないこともたくさんあるし、次はもうちょっとここを頑張ろうというのが常に山積みなので、自問自答しながら今まで続けてこられたのかなと。

 

28歳でデビューして30代、40代、50代、60代になって、体の変化もありますし、言葉にできない不調を感じる日もあります。でも、35年以上の時を経てずっと応援してくださる人がいることは何物にも変えられない宝物です。感謝しながら、今の年齢だからこそ見える景色を音楽に織り込みながら、コンサートで幸せを分かち合えますよう、もうすこし頑張りたいな、と思っています。

 

取材・文/松永怜 写真提供/辛島美登里