亡くなってから父との絆が深まった気がする 

── それはツラい体験でしたね。

 

辛島さん:でも、不思議なんですけど、父が亡くなってから、父と娘の絆が深まったような気がするんです。子どものころに父と一緒に何かするような共同体験はほとんどした記憶がないんですけど、父が亡くなってから、私が何かアクションを起こすたびに父に手を合わせて話しかけることが増えたんですね。

 

朝、家を出るときは「行ってきます」「今日はコンサートだから頑張ってくるね」「無事に帰ってきました」「お母さん1人だから転ばないように見守っていてね」とか、亡くなった父と短い会話をするように。会話と言っても私がしゃべっているだけですが。でも、亡くなったからといって父と娘の関係が終わるわけではなくて、父への思いはいくらでも寄り添うことができるのかなと。父と会話しながら、すごく気持ちが落ち着いている自分もいて、前向きな気持ちで徐々に過ごせるようになっていった気がします。

 

取材・文/松永怜 写真提供/辛島美登里