全身の筋肉が動かなくなる難病ALS(筋委縮性側索硬化症)との闘病を続けながら、クリエイターとして活動する武藤将胤(まさたね)さんの妻・木綿子(ゆうこ)さん。子どもを持つことは夫婦の念願でしたが、なかなか決心がつかなくて──。

体外受精で子どもを持つことを決意

武藤将胤、武藤木綿子
武藤将胤さんと木綿子さん

── 2013年にALSにかかっていることを知りながら、木綿子さんは「将胤さんとだったらやっていける」と思い、結婚されました。その後、将胤さんは闘病しながらALS患者の現状を知ってもらうための「一般社団法人WITH ALS」や重度訪問介護事業所「WITH YOU」を立ち上げられ、2023年には、おふたりの間にはお子さんも生まれました。お子さんを持つことは、いつごろから考えていらっしゃったのですか。

 

武藤さん:彼と私は子どもが大好きなので、結婚当初から「子どもはいつかほしいね」という話はしていました。

 

コロナ下でお互いに家にいる時間が増えて、彼は「そろそろ」と言ってくれたのですが、私はなかなか決心がつかなくて。そのころの私は、コロナ対策や、家にいることが増えた彼のサポート体制を整えるので精いっぱいでした。彼とぶつかることが多くて「こんな精神状態で、子育てをするのは無理」と思っていました。彼は24時間介護が必要な状態だから、子育ては100%自分ひとりでしなくてはいけない。その重さにも耐えられなくて、「もうちょっと待って」と言い続けていたんです。

 

でも、彼と話し合って、一度は辞めていたエステの仕事を再開することにしました。子育て中のお客さまの話を聞く機会も増えて、「みんな、いろいろあるなかでがんばっているんだから、私にもできるんじゃないかな」と自信が持てるようになりました。彼のサポートはヘルパーさんたちがやってくれるし、私には健康な体があるのだから、「できるじゃん!」と思えて。38歳という年齢的にも「今しかない!」と思って、体外受精のために病院に通い始めました。

 

── 治療は大変ではなかったですか。

 

武藤さん:排卵誘発剤の注射や薬の副作用は、きつかったです。ホルモンバランスのせいで情緒不安定になったことがありましたけれど、いやなことやつらいことは全部彼に話して、聞いてもらいました。彼は「無理しないでね」と言ってくれて、ごはんを作りたくないときはデリバリーを頼んでくれました。今も、スーパーへの買い物には彼が車いすでヘルパーさんと一緒に行ってくれます。

 

ありがたいことに、病院に通い始めて半年ぐらいで妊娠することができました。彼に報告するときは、サプライズでケーキに「3人家族になるよ」「パパおめでとう」というプレートを乗せたら、すごく喜んでくれました。

 

彼が「女の子がいいな」と言っていた通り、お腹の子が女の子だとわかって。私もうれしかったですね。名前は、彼が考えてくれた5つの案から、2人で選びました。彼が運営する「一般社団法人WITH ALS」が掲げるメッセージ「NO LIMIT, YOUR LIFE.」から、「ゆあ」と名づけました。「自分自身の人生を作ってほしい」という思いを込めています。