全身の筋肉が動かなくなる難病ALS(筋委縮性側索硬化症)との闘病を続けながら、クリエイターとして活動する武藤将胤(まさたね)さんの妻・木綿子(ゆうこ)さん。徐々に大きくなる家族の負担に限界を迎えて── 。

介護のストレスから徐々に夫婦仲は険悪に

武藤将胤、武藤木綿子
将胤さんの病気を知りながら木綿子さんは結婚を決めた

── 交際中だった武藤将胤さんがALSにかかっていることを知りながら、木綿子さんは「将胤さんとだったらやっていける」と思い、結婚をされたそうですね。ALSは徐々に進行していく病気ですが、結婚されたころの将胤さんには、どのようなサポートが必要でしたか。

 

武藤さん:ALSの進行は人それぞれですが、彼の場合はありがたいことに進行が緩やかなほうなんです。結婚当初は、腕は上がらないけれど指先は動くし、歩くことはできました。飲み込みにも問題はなかったので、食事は自分でスプーンを持って口に運ぶことができました。それでも、食事、歯磨き、着替え、整髪、お風呂のサポートが必要で、当時は彼のお母さんや妹さんに手伝ってもらいながら、基本的には私がやっていました。

 

── 家族だけでサポートをするのは、大変だったのではないですか。

 

武藤さん:当時は私もエステの仕事をしていたので、朝は彼の身支度をしてから自分の準備をします。当時、彼は博報堂で広告プランナーの仕事をしていました。往復タクシーで通勤していたのですが、仕事が忙しいからとにかく帰りが遅いんです。彼が帰ってくるのを待って、それから食事やお風呂のサポートをするので、私も寝不足になってしまって。疲労がだんだんと溜まっていきました。

 

「彼がやりたい仕事をがんばっているのだから、できる限りサポートしたい」と思っていたのですが、体力的にも精神的にも厳しくて…。あのころは、しょっちゅう彼とケンカをしていました。彼は自立心が強い人なので、何でも人にやってもらわなければいけないことへのいらだちがあったと思います。

 

私のほうも、髪形にこだわりがある彼に「もっとちゃんと髪を固めて」とか「こう流して」と言われたりすると、「どうしてそこまで言われなきゃいけないの!」とイライラしてしまって。ケンカが増えていきました。