26歳のとき、全身の筋肉が動かなくなる難病ALS(筋委縮性側索硬化症)を発症し、闘病を続けながらクリエイターとして活動する武藤将胤(まさたね)さん。彼の人生に寄り添う妻の木綿子(ゆうこ)さんに、病気を知りながら結婚を決意したときの心境を聞きました。

第一印象は「ちょっとチャラいのかな」

モデルや舞台女優として活動していた20代の木綿子さん
モデルや舞台女優として活動していた20代の木綿子さん

── 将胤さんと出会う前の木綿子さんのご自身のことを教えていただけますか。

 

武藤さん:大学生のときにスカウトされて、モデルや舞台女優として活動していました。卒業後も、お芝居やモデルを続けながら気ままに生きていたのですが、モデルやタレント業で生活していくのは大変で…。エステの仕事に出合って資格を取り、27歳のときに芸能活動は辞めて、美容の仕事1本でやっていくことにしました。彼と出会ったのは、それから3年くらいたったころです。

 

── どのような出会いだったのですか。

 

武藤さん:2013年の夏、行きつけのバーで偶然会いました。バーテンダーが共通の友人だったんです。仕事帰りに飲みに行ったら、隣の席に彼がいて、紹介してもらって、彼がひと目惚れをしてくれて…という感じです。

 

当時、彼は26歳で、博報堂で広告プランナーをしていました。最初は「ちょっとチャラいのかな」という印象だったので、警戒しつつ…(笑)。広告代理店の人って「遊び人」というイメージがあったんです。

 

でも、話をしているうちに「すごいな、尊敬できる人だな」と印象がすぐに変わりました。彼は、学生のころから、社会を明るくするために自分にできることを考えて行動してきた人です。そういう思いを熱く話してくれました。「もうちょっと話したいな」と思えたので、その日の帰りに連絡先を交換して、次に会う約束をして。それから何度か食事に行って、おつき合いするようになりました。お互いに早い段階で、結婚を意識していましたね。

 

── 将胤さんの体調に変化があったのは。

 

武藤さん:知り合ったころから、手の震えなどの症状は出ていました。あちこちの病院で診てもらって、検査入院までしたのですが、原因がわからなくて。「なんだろうね」という話はしていました。「仕事が忙しくてあまり寝ていないと言っているから、疲労が溜まっているのかな」と私は思っていました。

 

そのうちに転びやすくなったり重いものが持てなくなったりと、できないことが徐々に増えていきました。でも、原因がわからないから対策がとれなくて、不安でした。当時、ALSを題材にしたドラマを見たり、「アイスバケツチャレンジ」でALSのことを知ったりして、「もしかして…」とは思っていたのですが、結局、病名がわかるまで1年くらいかかりました。