高校で初めて「大人に怒られない」日々を経験

ユージ
小学生時代のユージさん

── 中学を卒業してどうされたのですか?

 

ユージさん:僕はもう学校にも先生にもうんざりしていて高校へ行きたくなかったので、進学せず働くつもりだったんですけど、母親からどうしても高校だけは出てほしい、私の願いはそれだけだと懇願されて、関東の高校一覧が掲載されている分厚い本を渡され、「この中でひとつだけ、ここだったら行ってもいいっていう高校を見つけて。お願い!」と言われました。

 

いやいやながらページをめくっていたら「自由の森学園」という校名が目に入り、母親が反対しそうな学校だと思ってあえて選んだら、ぜひ行ってほしいと。それでも行きたくなかったので不合格を願って何の対策もせずに受験したのですが、なぜか合格して、これで受かるなら本当に自由なんだな、と思って入学することにしました。実際に入学してみてわかったのは、素晴らしい高校だということ。あの学校での経験があるから今日の僕がいるといっても過言ではないです。

 

── 具体的にどういったところが素晴らしかったのでしょうか?

 

ユージさん:自由の森学園高等学校は埼玉県飯能市にあり、自然豊かな環境なんです。僕は通いだったのですが、寮もあったので、北海道から沖縄まで全国から集まった生徒が寮生活をしていました。学校名にもあるように、高校3年間でそれぞれの「自由とは何か」を見つけることを目的としています。僕のように不良で親も手を焼いていているようなタイプや不登校経験者など、何かしら問題を抱えている生徒も多かったと思います。僕の印象では約半数がそういった生徒だったように感じました。

 

校則がなくて、髪を染めてもいいしピアスをしてもいいし、服装も自由だから入学当初はみんな荒れるんです。あちこちでケンカが起きるし、バイクで学校に来る生徒もいるし、壁には落書きがあるような状態。授業中に校庭でサッカーをしていようが怒られないですし、やんちゃな子たちからすると「何やってもいいなんて最高に楽しい学校じゃん」となるわけです。

 

怒られずに学校内で遊び続けた結果、何が起こるかというと、授業をサボって悪さをしていた生徒も、やることがなくなってくるんです。朝9時から午後3時までずっと校庭でサッカーできないし、周辺も森に囲まれていて暇を持て余し始めて、「やることないから授業出るか」という発想になっていくんです。先生はひとことも「授業に出ろ」「遊ぶな」とは言わないのに授業に出始めるから、完全に学校側の作戦勝ちですよね。不思議と3年生になるころには、ほぼ全員が授業に出ている日が多くなってくるんですよ。

 

── 独自の教育方針ですね。

 

ユージさん:卒業時には論文のようなものを書くのですが、そのタイトルが「自由とは」。いろんな意味で「本当の自由とは何か」というのをそれぞれの生徒が3年かけて学ぶ学校でした。結局、ルールや限られたものがあるなかで成立する自由というのが本当の意味での自由だと僕は感じましたし、ルールがないなかで何をやってもOKな状態は、実は自由ではないんですよね。

 

卒業生には星野源さんやハナレグミのメンバーなどアーティストが多いですし、自由な校風ゆえに、部活動も5人集まれば設立できて、当時では珍しかったスケボー部や、ウォールアートを描くグラフティ部などいろいろありました。だから、壁の落書きも実はアートだったんです。自分たちでルールを決めて自分たちで前へ進む力を身につけることができる学校でした。

 

── 今まで先生や周囲の大人に怒られ続けてきたユージさんにとっても、初めての怒られない環境だったのではないですか?

 

ユージさん:本当にそうです。先生のことは全員ニックネームで呼んでいてタメ口OKでしたし、本当にフレンドリー。逆に「先生」と呼ぶと「堅苦しいからやめろよ」と言われるくらいなんです。そして3年間クラス替えがなく、担任の先生も3年間同じで関係性を築くのが自由の森学園の特徴で、ようやく楽しい学校環境がやってきたと思いました。