貧富の差を生む、支援の難しさ

── 国内だけではなく、海外でも活動されていると伺いました。

 

野口さん:ヒマラヤにランドセルを届けようプロジェクトとして、小学校を卒業してもう使われなくなったランドセルを全国から集めて、ネパールの子どもたちに届けています。一緒に山に登ってサポートをしてくれるシェルパたちに恩返ししたいという思いから始めた活動で、エベレスト街道の小学校などに配っています。ところが、地域によって貧富の差が激しい場所でもあります。登山客が集まりやすく、ボランティアがたくさん入っている地域もあれば、観光客が少なく、産業もあまりない地域もあるんです。そういった場所は、子どもたちが学校に通えていないとか、鉛筆1本持っていないというところもあります。

 

登山で何度も訪れる場所なので、思い入れもあって始めたことではありますが、その地域を助けたいという思いで支援をすればするほど、国のなかの地域差をうんでしまっていることは支援の難しい部分だと感じています。

 

海外でランドセル支援をする野口絵子さん
ネパールの子どもたちにランドセルを届ける絵子さん

── 日本では地震の被災地を訪れているそうですが、海外でも自然災害を目の当たりにすることがあるそうですね。

 

野口さん:日本にいるとあまり地球温暖化について実感する機会がないのですが、ヒマラヤでは地球温暖化で氷河湖が決壊して流されてしまった村があります。エベレスト街道にあるターメ村の小学校にこれまでランドセルを届けてきたのですが、今年の春、氷河湖の決壊による洪水が起きて村の半分が流されてしまって。発生10日後に現地を訪れて、寄付金とソーラーランタンを届けたのですが、これまでの美しい緑の芝は消えてしまい、黒い雲が立ち込めていました。

 

幸い昼間だったので、住んでいる人は逃げることができ、人的な被害はなかったのですが、人が住める状態にはないので、別の場所に移らなくてはなりません。毎年夏がモンスーンの時期で降水量が増えるので、残っている一部の家もまたいつ崩れてしまうかわからないからです。自然の変化のスピードは本当に一瞬で。自然を目の当たりにすると自分ひとりの力はなんて無力なんだろうと感じます。日本でこのことを人に話をしても、どこか遠い国の話として受け取られてしまうので、日本も災害大国で、異常気象も災害も起こり得るので、もっと自分ごととして思ってもらえるように発信していきたいと思っています。

今は「将来にあてる時間」だと思って

── 現在大学3年生だと伺っていますが、今後どのようなことに取り組んでいきたいですか。

 

野口さん:今は、大学を1年休学してさまざまなことにチャレンジしています。ボランティア活動もそうですし、学生による稲作プロジェクトやミス日本コンテスト、登山も続けています。小さいころは引っ込み思案でしたが、いつ何があっても満足できる自分でありたいと思うと、学生のうちに自分のしたいことに没頭して、挑戦してみる時間を作りたいんです。今は「将来にあてる時間」と考えています。

 

何事にも積極的にチャレンジできているのは、小学生のころから山や被災地に連れて行ってもらったことで、死生観や命について考える機会が多くあったからだと思いますし、将来はこの経験を、多くの人に伝えていかなくてはと感じています。命はとても重いものなのに、簡単に奪われてしまうこともあるし、いつ何時、何が起きるかわからないと思うと、私にとっては1日1日がとても大切なんです。

 

周りから「登山家なの?」と聞かれることが多いのですが、山に登るのは登頂の記録を作りたいからではありません。私にとって、山に登ることは挑戦し続けることと同じで、自分に向き合う大切な時間です。将来してみたいことはたくさんあるのですが、いつか環境学校のような学びの場を作って、子どもたちにさまざまな自然での経験を伝えていけたらいいなと思っています。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/野口絵子