「実の母親だからといって無理する必要はない」

── 親との区切りをつけたことで、自分の人生をようやく歩き出せたのではないかと思います。幼少期は「結婚なんて絶対にしない」と誓っていましたが、今は結婚され、3児の父として幸せな家庭を築かれていらっしゃいます。

 

若井さん:おかげさまで、妻とも巡り会え、息子たちにも恵まれました。縁をきった後もいろんなことがありまして。3年前に長男が生まれたときにいとこから連絡が来て、「あんたのお母さんが、若井家に男の子が産まれたと聞いてどうしても会いたいと言ってるけどどうする?」と。「ムリです。ごめんやけど会わすことはできへんわ」と伝言を頼みました。子どもにとっては唯一のおばあちゃんだとも思いましたが、僕自身がやはり納得できず、嫌だったので会わせるのはやめとこうと思いました。

 

そのあとも、いとこから「おばちゃん(若井さんの母)が危篤なんだけど、どうする?」と連絡が来ました。「僕は行かないので、外国のお兄さんに連絡して」と伝えたのですが、次の日また連絡が来て「おばちゃん大丈夫やった」と。「それって心配して駆けつけるか、試していたのか?」と思ってしまいました。冷たい言い方ですけど、そういう心境でした。

 

ただ今度は、母の妹である叔母から電話がきて。叔母は僕なんかよりもっと早くに母と縁をきっているんですけど、「今どうしているのかと思って電話した。私はあんたのお母さんが憎くて憎くてしかたなかったけど、先日倒れはったと聞いたときは、涙が出た」と。それを聞いて、倒れたのは本当だったんだなと思いましたけど。

 

── ご自身が吹っきれていても、「実の母親」というつながりを周りがよかれと思ってつなげようとしたり、思い出させてしまうのはつらいところですね。

 

若井さん:きっと周りの人からしたら、母に僕の息子を会わせてあげたほうがいいと思う人が多いと思うんですけど、僕はやはり自分の身を守りたい。子どものころに受けた虐待が忘れられないので。

 

同じように苦しんでいる人に僕の経験からお話しできるとすれば、身の回りにしんどい人がいたら、関わりを持たない状況にしたほうが心にわだかまりなく生きていけるので、嫌だと思ったら関係を断ちきったほうがいいということ。たとえそれが実の母でも。

 

周りの意見もあるし、罪悪感を感じてしまうこともあるかもしれませんが、まずは自分の命や気持ちを大切にしてほしいですね。僕みたいな例も知ってもらって、自分が生きていくために自信を持ってほしいなと思います。

 

 

現在は年子の男の子3人のパパとして子育てに奮闘中の若井さん。2021年に結婚した16歳年下の奥さんとの出会いはやはり「ガンダム」がきっかけだったそうです。また、以前専門家に「虐待された経験がある人は自分の子どもに対して100パーセント虐待する」と言われたことがあるそう。その言葉を踏まえ、子どもに対しては絶対に怒らないように心がけていると言います。

取材・文/加藤文惠 画像提供/若井おさむ