クラファンで3900万円集めたことも話題に

── 海は毎日違うから難しいし、おもしろい。だからこそ、宮良さんの感覚が重宝されるんでしょうね。宮良さんが民宿を継いで、変化したことは?

 

宮良さん:船です!僕は、海と船が大好きなので、この話をしだすと長くなりますよ(笑)。なにしろ、ガキのころの夢が「船になりたかった」くらいですから。中学生から毎月ボート雑誌を買って、世界のボートを眺め、いつかこんなボートを故郷の海に浮かべたいと考えていました。

 

民宿を継いだ10周年を記念して、それまでの船を買い替え、僕の理想のツアーができる船を購入しようと、3900万円を集めるクラウドファンディングを実施しました。お客さんが非日常を体験し、最高の気分になれる船。波から受ける振動が少ないので、お年寄りでもストレスを感じることなく移動できます。ほかにもいいところは言い出せばきりがありませんが、僕がこれまで見たなかで間違いなく最高の船。これを購入したいという夢を1072人が応援してくれて、約3950万円が集まりました。

 

民宿宮良の夜はゲストとの「ゆんたく(沖縄方言でおしゃべりのこと)」

── そんなに多くの方が!いつから新しい船になったのですか?

 

宮良さん:2023年に新しい船(フィンランド製AXOPAR 37ST)が来ました。船の名前は、地元・八重山の海をイメージし、家族の思いをこめて「SEAEL(シーエル)12」と名づけました。「SEA」は長男セア、「EL」は次男エル、「12」はこの世を去った愛犬の名前・ダースからです。船が変われば、見える景色が変わります。お客さんにも喜んでもらっていますし、何よりも僕はうれしい。でも、最高に楽しい瞬間は毎朝、海に行く際にボートのカバーをはずすとき。「今日もよろしくなー」と、船に話しかけながら手入れしています(笑)。

 

── クラウドファンディングで多くの方に支持され、民宿にリピーターのお客さんが多いというのは、みなさんに愛されている証ですね。

 

宮良さん:民宿を継いだ当時は、DA PUMPのファンがたくさん来てくれてありがたかったです。でも、その後、民宿宮良が好き、オーナーの宮良忍が好きといって、何度も来てくれる人が増えました。マスターに会いたいからあのバーに飲みに行く、というように、「忍のいる、小浜島の民宿」に来てくれる人がいて、とてもうれしいです。

 

── 民宿を継いで13年目、いま、どんなことを考えていますか?

 

宮良さん:「憧れ」を大切にし続けたいです。僕は中学1年生のときにチャゲ&飛鳥さんに憧れ、武道館を目指しました。同様に、幼いころからの憧れを実現して、理想の船も手に入れました。

 

民宿のあり方も、島民として伝統行事に参加する生き方においても、「憧れ」を失わず、つねに何かを目指して、自分自身が腐らないようにいたいです。民宿経営が、流れ作業や単なる繰り返しにならないよう、新鮮さを感じ、一瞬一瞬を大切にしてお客さんに接したいです。この思いが自然にお客さんに伝わって、「忍のところにまた行きたい」と感じてもらえたらうれしいです。

 

 

地元・小浜島で民宿を経営する元DA PUMPのメンバー宮良忍さん。プライベートでは地元でパートナーに巡り合い、2児の父として家族を支えています。子どもたちに望むことはただひとつ。「島出身であることに誇りを持って生きてほしい」。それだけを願っているそうです。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/宮良 忍