無性に腹が立って「だったら辞めれば」と
── 現役中にご主人を叱咤激励したり、アドバイスされていたとうかがったことがあります。
中村さん:主人が38歳ぐらいのころにケガが続いた時期があって、「もうムリ。やめようかな」と半ば投げやり気味に、愚痴をこぼしたことがあったんです。そのときに「だったら今すぐに辞めれば」と怒鳴りつけたことがありました。私としては主人と並走して一緒に頑張っているという覚悟と自負もあって、それぐらいのことで辞めるなんて、なんなのだろうと無性に腹が立ってしまって。
── ご主人は慰めの言葉が欲しかったのかもしれませんね。でも。そんな中村さんの喝が奮起につながったのかもしれません。
中村さん:いざ引退となったときは感慨深いものがありました。最後の試合が終わった日は、家で待ちながらどんな声をかけようかと思っていたのですが、帰宅した主人を見たらポロポロと涙が出てきてしまって。引退に関してはふたりで話して納得したうえで次に進むことを決めたし、頭では理解していたのですが、「サッカーやめないで」という言葉が不意に出てきたんです。ボールを蹴る姿や、主人がただ楽しくサッカーをやる姿をいつまでも見たい、その気持ちでいっぱいでした。もうその姿が見られなくなることは、とても寂しかったです。
主人が引退して早5年が経ち
── 3人のお子さんを育てるにあたって、ご夫婦、そして中村さんが母親として大事にされたのはどんなことでしょうか。
中村さん:私も主人もお互いに思ったことや、今どういう状況なのかは夫婦間で必ず話をするようにしています。とくに主人が引退した後は夫婦の時間が増えたので、自宅や移動中の車などよく話をしています。
今年は中3の長女の進路についていろいろと考える時期だということもあるので、会話が多いですね。今の子どもたちは私たちが中学生のころに比べると、より早い段階から将来について考えさせられ、それに見合った高校を選択することを求められるなと感じます。
だからこそ、子どもたちにはこちらの思う正解は押しつけないようにしたいと思っています。子どもたちが自分で選択できるように情報は教えますが、それぞれの長所もやりたいことも違います。それでいいと、主人とも常々話をしています。
── ご主人が引退されて早5年が経ちます。現役時代との変化を感じるのはどんな瞬間でしょうか。
中村さん:現役を引退後4年ぐらいは、プロサッカーチームのコーチや監督をするために必要なライセンスの講習があったり、すごく忙しく過ごしていたんですが、今は少し落ち着いて選手時代とは異なる新しいルーティンが出来上がりつつあります。ただ、並行して長男の高校進学などもあったので、ホッとひと息つくというような感じではなかったかもしれません。