教育系YouTuberとして登録者数200万人超のチャンネル『とある男が授業をしてみた』を運営している葉一(はいち)さん。中学の範囲をメインに教科書丸ごと1冊理解できるほどのていねいな授業動画や子どもたちへ語りかける動画が人気です。その根底には自身の経験からくるさまざまな思いがありました。(全3回中の3回)
「教科書1冊の内容を全部」授業動画にした訳

── 2012年に開設されたYouTubeチャンネル『とある男が授業をしてみた』は、美しい板書とていねいな教え方で学校の勉強が基礎から学べると人気です。学校を休んだとき、進んだ授業の内容を理解するために動画を見る子どもも増えていると思いますが、それ以外でも、たとえば不登校のお子さんからの支持も高いのではないですか?
葉一さん:はい。不登校の子の利用率は高いと思っています。ご家族から、子どもが不登校で外に出られないけど、動画で勉強ができるから助かるといった感謝の声をいただくこともあります。フリースクールの先生からも「葉一さんの動画を活用しています」といった連絡をもらうことは多いです。
── 不登校の子を支援したいという思いは、開設当初からあったのですか?それとも続けていくうちに必要性を感じたのでしょうか?
葉一さん:不登校の子の支援は、最初からしたくて始めました。教育系の動画、いまではたくさんありますけど、私はつまずきやすい単元だけピックアップして撮るのではなくて、教科書1冊の内容を丸ごと全部、授業動画にして上げているんですね。たとえば中学1年生の数学だけで約90本の動画があるんですけど、教科書と連動して進めているので、1から90まで見てもらえれば、教科書の問題はたぶん、ほぼ解けると思います。いろんな理由や事情があって学校へ行かないという選択をした子も、この動画を見れば教科書1冊理解できるよ、という状態にしたかったからです。
「学校へ行け」とは言いたくない
── ご自身のYouTubeでは定期的に、いじめや不登校に悩む子たちへ声かけをするような動画を上げていらっしゃいますよね。葉一さんご自身が中学時代にいじめに悩み、円形脱毛症になったり学校に行けない日があったりしたそうですが、当時の経験が原点になっているのでしょうか?
葉一さん:そうです。過去にいじめや学校に行けなくて悩んだ経験があるから、学校に行きたくないと思っている子たちに「学校へ行け」とは言いたくないんです。「学校に行かなくても別にいいよ」と言ってあげたい。
学校へ行かないという選択をした子は「普通の子ができていることがなぜ自分はできなんだろう」という自己嫌悪が強くなってしまいがちです。なので、学校へ行かないという選択をした状態でも自己肯定感を保てるようなサポートがしたいんです。「自分を責めなくていいよ」「学校に行かなくても大丈夫だよ」といった語りかけを、普段の授業動画とは別にアップしています。
── 学習動画以外に、そのような発信をするきっかけは何かあったのですか?
葉一さん:もともと学校の先生になりたくて教員免許も取得していたんですけど、当時から目指していた教師像がありました。子どもに勉強を教えるだけじゃなくて、放課後に子どもたちと話をして、その時間が少しでも子どもたちの救いになるような教師になりたかったんです。
結局、教師にはならず、会社員や塾講師を経てYouTuberになったわけなんですけど。YouTubeを始めたころは授業動画ばかりを撮っていましたが、ありがたいことに多くの子どもたちが見てくれるようになった段階で、せっかくなら自分の思いを届けたいと思って、語りかけ動画を始めたんです。
── 語りかけ動画はどうやって撮っているんですか?
葉一さん:意図的にカット編集なしで、10分くらい語りかけている動画を撮って流しています。夏休み明けの9月1日など、学校へ行きたいくない子が増える日に向けて、数年前から定期的に上げています。YouTube以外では『Voicy』というラジオアプリでも週2回、月曜と木曜に発信しています。Voicyでは、Googleフォームで悩み相談を受けつけていて、ラジオネームとともに書いてくれた悩みごとがいっぱい届きます。それに対して返事をしていくという活動も5年目に入ります。
── いじめや不登校の子どもにかける言葉は、中学生だったころの自分に向けて言いたかったことでもあるのでしょうか?
葉一さん:多分そうだと思います。俯瞰的に見て「これって自分が当時欲しかった言葉だよね」と思うこともよくありますし。だからこそ、リアルにいま悩んでいる子に伝わるはずだという気持ちもあります。