当事者が自分の言葉で伝えたかったのは

── ナルコレプシーは、国の定める難病指定には入っていないと聞きました。
あこちさん:そうなんです。命に直接関わらない病気と見なされているからだと思います。患者数も非常に少ないので、支援の網からこぼれやすい。でも、原因がわからず長年苦しんでいる人たちは多いと思います。私も15年間、この病気になかなかたどり着けず、遠回りをしました。
ナルコレプシー単独では、障害者手帳の取得も難しいのが現状です。主な治療薬「モディオダール」にはジェネリック医薬品がなく、1錠100円以上と高額です。私は副作用が出やすいので1日1錠に抑えていますが、人によっては1日3錠飲むこともあり、薬代だけで1万円を超えることは少なくありません。それだけに経済的負担は決して軽いものではありません。
── 現在、SNSやYouTubeで、当事者として発信されています。きっかけは何だったのでしょうか。
あこちさん:私と同じように苦しんでいる人が、きっといると思ったんです。周りからは「サボってるでしょ」「気持ちの問題」「寝具を変えたら?」などと言われ続けてきました。悪気がないのはわかるのですが、努力してもどうにもならないのに、怠けていると見られてしまうのがつらかった。だからこそ、自分の言葉で伝えたかったんです。
最初は公にすることで「言い訳してる」と思われるのではと不安でした。でも、それ以上に知られていないことのほうが怖かった。知られなければ、ずっと誤解されたままですから。YouTubeを見て「病院に行こうと思った」と言ってもらえたのがうれしかったです。「これまでのあなたのこと、ようやく理解できた」と言ってくれた友人もいて、15年分の重荷が少し軽くなりました。
── 一方で、心ない言葉や偏見にあうこともあるのでは?
あこちさん:「寝具が悪いんじゃない?」「生活リズムを整えたら治るでしょ」と言われることも多いです。きっと助言のつもりなのかもしれませんが、さんざん手を尽くしてきたので心に刺さります。でも、誰かが伝え続けないと、この病気は存在しないことになってしまう。知られないことが、いちばん怖いんです。
そして病気を知られないまま誤解されて、私のように自分を責めてしまう人もいると思います。そんな人に「あなたは悪くない」と伝えたいです。病気を抱えて生きるのは諦めることじゃなく、工夫して生きること。眠気と共存しながらも、笑って生きていきたい。そう思っています。
取材・文/西尾英子 写真提供/あこち