「身長を伸ばす」治療を行わなかった訳は

── ご自身が軟骨無形成症だと知ったのはいつごろでしょうか?

 

後藤さん:体が小さくて、みんなと体型が違うということには小学生のころから気づいていたのですが、それが病気や障害とは捉えていませんでした。「軟骨無形成症」という名称はなんとなく聞いて知っていたように思いますが、それがどういうものか理解したのは高校生かもっと大人になってからだったかもしれません。

 

わたしの場合、2歳くらいまでは肺炎で何度か入院したことがあったそうなのですが、軟骨無形成症が原因で体調を崩すとか、病院に行ったことがありません。だから、自分を病気だと感じたことがないんです。生活のなかで不便を感じることはあるから「障害」ではあるとは思いますが、この体でいることがわたしにとってごく当たり前で自然なことです。

 

後藤仁美
独自のファッションが注目されモデルや俳優としても活躍

── 軟骨無形成症には治療法がないのでしょうか?

 

後藤さん:いくつかの治療方法があり、代表的なものとして「成長ホルモンの注射」や「骨延長術」が挙げられます。成長ホルモンは注射で投与することで身長を伸ばすことが期待できます。骨延長術は固定器を設置し、1日1ミリ程度身長を伸ばす手術です。

 

でも、わたしはそのどちらも受けていません。成長ホルモンの注射は、くわしい理由は聞いていないのですが、両親の方針で受けないことになりました。もうひとつの骨延長術については、小学生のときに周囲の大人から「骨延長術という治療方法があるみたいだけど、受けるの?」と聞かれたことがあって。両親に「わたしはその治療を受けたほうがいい?」と聞いたところ、「1年間入院して、お友だちとも離れることにもなるよ」と言われたんです。それを聞いて、いま元気なのに入院したくない、友だちと離れたくないなと感じました。小さい体で問題ないと思い、自分で「受けない」と決めました。

 

── 治療を受けないと決めたのはご自身の意志だったのですね。

 

後藤さん:もちろん、体が小さくて不便なことはあります。でも、体型に特徴があることをネガティブにとらえていません。これは小さいころから両親が、コンプレックスを抱かないよう前向きに接してくれたおかげです。両親は何か困ったことがあると、「あなたはどうしたい?」とわたしの意見を尊重して、一緒に解決する方法を探ってくれたんです。

 

ずっと寄り添ってくれたから、わたしは前向きに過ごせるんだと思います。「こんなに楽しく、充実した人生を歩めるよ」と発信して、同じ障害を持つ人たちの「星」のような存在になりたいです。

 

 

先天性の軟骨無形成症のため、大人になったいまも身長は115センチの後藤仁美さん。愛情深い両親に育てられ、他者との違いにも嫌な気分を引きずらずに生活してきました。そんな後藤さんは好きだったファッションについて専門学校時代にブログで発信したことで大きな反響が。現在は「身長115センチの小さなモデル」をはじめ、役者やドラマーとして、多岐に渡る活躍を続けています。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/後藤仁美