「人を傷つけない」笑いを届けたい
── 小力さんの笑いには、人を傷つけない姿勢が感じられます。
小力さん:そうですね。あの経験から「人を傷つけるようなことや嫌がることで笑いはとらない」という考えが僕のなかに根づいたように思います。ひとつのネタや笑い話をしたとしても、受け手によってとらえ方はまったく違う。だからこそ「これで誰か傷つかないか」という視点はつねに持つようにしています。それは、お笑いを長く続けていくうえでの処世術でもあります。
「いじり」がエスカレートしがちな時代を生きてきた僕らの世代は、そういう問題にちゃんと向き合わなければいけない自覚があります。日常のなかで、無意識に誰かを傷つけてしまっているかもしれない。自分を振り返ることも多いですね。できていないこともたくさんあります。

── 思いやりを持って人と接する。シンプルなようで難しいことですね。小力さんから見て、いまの時代はどう感じますか?
小力さん:最近は「こうあるべき」という空気が強すぎて、その反動で人間関係をギクシャクさせている部分があるんじゃないかなと思います。誰もが思ったことを発信できるいい時代ではありますが、当事者でもない人が、中途半端な情報しか知らないのに、首を突っ込んで正義を振り回す。そんな風潮を感じます。
自分では「これが正義だ」と思っていても、はたしてそれが誰のためのものなのか。表面的で薄っぺらいものになっていないか。謙虚さをもって人と接していれば、ギスギスしたり、人間関係が悪い方向にはいったりしない気がします。相手の気持ちを想像しようとする、ちょっとした思いやりがあれば、みんなが楽しく笑って過ごせるんじゃないかと思うんです。
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「人を傷つけない笑い」を目指して走り続けてきた小力さん。プロレス芸などで一時は月収2000万円という噂もあったほど大ブレイクしましたが、「売れたい」という欲はこれまでまったくなかったそう。単純にお笑いが好きで楽しい気持ちを抱き続け、今年で芸人になってデビュー37周年を迎えます。
取材・文/西尾英子 写真提供/長州小力