目標は立てない「人生は大喜利」
── 何がストッパーになっているのでしょう?
小力さん:もしも結婚が僕の人生でいちばんになったら、お笑いができているという幸せな運を失いそうな気がしてしまうんです。それに、相手に対して本当に責任を負えるのかと考えると自信が持てなくて。
いまの生活のなかで、自分のペースで回している暮らしを、もうひとり分抱えることになるのかと思うと「果たしてできるのだろうか」と考えてしまいます。この先、仲よくなってつき合って…という過程を思い浮かべると、もう億劫になってしまう。だから、気になる人ができても、自分のペースでときどき関わるくらいでちょうどいいかなって。結局のところ、やっぱり怖いんだと思います。でも、結婚している人はこういう不安や迷いを乗り越えているのかなと思うとすごいなあと尊敬します。

──「お笑いがずっと人生の軸にある」という小力さん。楽しみながら続けてこられた秘けつはどこにあるのでしょう。
小力さん:肩の力を抜いて、適度に無責任でいることでしょうか。お笑い以外に楽しいことがないので、自然と続けてこられたというのもあります。とくにこの10年は、お客さんとの会話を楽しむようになったのも大きいです。ネタがウケてもウケなくても「つまんないでしょう?」とか、「おもしろいでしょう?」と話しかけて、コミュニケーションのきっかけにしています。もちろん芸人なので、全力で笑いをとりにいく気持ちはありますが、「絶対にウケなくちゃいけない」というプレッシャーは、もうないですね。
僕は目標を掲げたことがないんです。目標を立てて頑張ることは素晴らしいと思います。ただ、それに縛られてしまうと、選択肢の多い世の中で「本当にこれでいいのか」と、迷って動けなくなりそうで。だから、目の前に降ってきたお題にどう答えるかという姿勢で生きています。いわば「大喜利」の感覚ですね。いい結果も悪い結果も、自分で咀嚼して、前に進む。それだけですね。
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50代で達観にも似た境地に辿り着いた長州小力さんですが、ものまね芸が大ブレイクした当時は「最高月収2000万円」の噂も。お金には無頓着なので、きちんと管理できず、いま残ったのは保険がわりに買った高級時計ひとつだけだそう。環境も変化したことで人づきあいの難しさも感じたそうですが、そうした経験もいまにつながっていると、感じているそうです。
取材・文/西尾英子 写真提供/長州小力