「胸を失くすこと」がどれだけ苦しいか

── そこからまた手術を?
藤原さん:今回はセカンドオピニオンを受けました。というのも、再発だと手術後に転移する可能性があるため、放射線治療を含めその後の治療法にいろいろな選択肢があるんです。主治医もセカンドオピニオンを推奨してくれたので別の病院にも行きましたが、答えは最初の病院と同じでした。
それで、また同じ先生に手術をお願いしたのですが、今回は局所再発のため全身麻酔は行わずに局所麻酔で切除を行うことに。意識があるなかでの手術は、先生の声が聞こえたり、痛みはなくても切除している感覚が体に響いたりするので怖かったですね。2回目の手術だったので最初よりは落ち着いて受けることができ、入院もなしの日帰り手術でした。術後は25日間の放射線治療をし、5年間にわたる女性ホルモンを抑える薬の服薬が始まりましたが、今はそれもすべて終わりました。
── 闘病中に支えになったことはなんでしたか?
藤原さん:やはり夫が近くにいてくれたことでしょうか。私以上に私の心配をしてくれたし、「胸があってもなくても宏美だよ」と言ってくれたのは心強かったです。ただ、夫は左胸を切除した部分を、いまだに一度も見たことがないんですよね。言葉と気持ちはもしかしたら違うのかもしれないと察しています。
夫がとても心配してくれているのもあり、再発後は大好きだった仕事を減らしました。仕事が好きなので夢中になってしまって、無理をしてしまいがちだったので。ストレスのないゆっくりした生活が体にとっても大事なので、病気を機に体にやさしい食事を心がけたり、夫とのんびり旅行に行ったりすることが増えました。
そういう生活のなかで自分になにかできることはないかと考え、ヘアドネーションも行うようになりました。ヘアドネーションとは病気で髪の毛を失ってしまった子どもたちのために、寄付された髪の毛で医療用ウィッグをつくる活動のことです。病気でつらい思いをしている未来ある子どものためになにかできることはないかと考え、これまでに3回ほど行いました。
── 今後、左胸を再建する予定はありますか?
藤原さん:今のところは必要性をあまり感じていないので、する予定はありません。魅力的な水着を着た女性を見て美しいな、いいなとは思いますが…。以前に病院で80代の女性が再建しに来た話を聞いて、やろうと思えばいつでもできると知れたのが大きな支えになっているのかもしれません。
私ががんになっていちばん悩んだのは、胸を取るかどうか、でした。もちろん、がんになったのもショックですが、それ以上に「胸を失くす」こと自体が女性にとってとてもデリケートでセンシティブな問題だと自分の体験を通して感じました。撮影をしたのもそれが理由のひとつです。いつか、その80代の女性のように、私ももしかすると胸を再建したいと思うときが来るかもしれない。そうしたらそのときにまた自分の気持ちに向き合ってじっくりと考えたいと思います。
取材・文/酒井明子 写真提供/藤原宏美