吉本興業に所属する芸人のたいぞうさんは、2024年に、みずからが神経発達症の一種である「自閉スペクトラム症(ASD)」であることを公表しました。以前は自身の特性について思い悩むことも多かったようですが、診断名を公表したことで、新しい希望を持てるようになったそうです。(全3回中の3回)
「あなたはすごい」医師のひと言に背中を押された

── 2024年に発達検査で「自閉スペクトラム症(ASD)」ということがわかりました。その後、自身の特性について、SNSなどで公表されていますが、「公にしよう」と考えた理由について教えてください。
たいぞうさん:「公表しよう」と考えるきっかけになったのが、発達検査をしてくれた精神科の先生からもらった言葉でした。僕が「自閉スペクトラム症(ASD)」であることがわかったとき、先生が「あなたはすごいですよ」って言ってくれたんです。
一般的に、自閉スペクトラム症(ASD)の方は、人と話すなどの「コミュニケーション」に苦手を感じている人が多いそうです。それなのに、僕が30年以上芸人として活動していることに対して、「努力でスキルを磨いてきた人なんですね」って先生が褒めてくれて…。
これまでは、自分のことを「しゃべりが下手だ」と感じていたのですが、先生からのひと言で、「自閉スペクトラム症(ASD)があるにも関わらず、ここまで来られた自分はすごいんだ」と、認めてあげられるようになりました。世の中には、僕のように特性があることで悩んだり落ち込んだりしている人も多いと思います。だからこそ、僕自身のことを発信することで、同じ境遇にいる誰かを勇気づけることができるんじゃないかと思い、公表することを決めました。
── 公表した後の、反響はいかがでしたか?
たいぞうさん:発達に特性をもつ子を持つ親御さんから、「勇気をもらった」という言葉をたくさんもらいました。
実は、僕の甥っ子も自閉スペクトラム症(ASD)なのですが、ずっとしゃべり続けたり、得意なことに時間を忘れて没頭したりと、特性が僕と似ているんです。僕が公表した後、甥っ子から連絡をもらい、「僕も自閉スペクトラム症(ASD)だけど、どうしたらおっちゃんみたいに社会に出て活躍できるのかな」と聞かれました。それで、僕がこれまで、どんなふうに頑張ってきたのかを話したら、甥っ子も自信を持つことができたようで、明るい笑顔を見せてくれて。その瞬間、「公表してよかった」と感じました。
── 自身の特性をネガティブに捉えている人も多いなかで、特性を活かしながら活動を続けているたいぞうさんの姿は、当事者やその家族にとって大きな励みになりますね。仕事の関係者からはどのような反応をもらいましたか?
たいぞうさん:マネージャーさんや先輩芸人などの仕事関係の人には、公表するよりも前に伝えていましたが、「わかっていたよ」という反応が多かったのには驚きました。最近知り合った人からは「発達に特性があるとは思えない」とびっくりされるのですが、駆け出しのころからつき合いのあった人たちにとっては、僕の不思議な言動が強く印象に残っていたのかもしれません。
それから「障害者雇用」で働けることになったのも、公表したことで得られた大きな変化です。僕は、10年ほど前から、芸人としての活動と並行して、物流事業を手掛ける会社の倉庫で働いていますが、これまで、指示を正しく理解できなかったり、効率よく動くことができず、しょっちゅう注意されては落ち込んでいたんです。でも、自閉スペクトラム症(ASD)だということを職場にも伝えて、障害者雇用に変更してもらってからは、特性に合った仕事を任せてもらえるようになりました。今は、変化の少ないルーチン作業を行っていますが、得意な分野を仕事にしたことで、格段に仕事がしやすくなったと感じています。