僕の特性に合った対応をしてくれた妻

たいぞう
アーティストとしての活動をし始めたころ

── 現在のパートナーとは、たいぞうさんの個展がきっかけで出会ったそうですね。

 

たいぞう:そうです。20代後半ごろから、ひとつのことに極度に集中しやすい「過集中」の特性を活かして絵を描き、個展を開催してきましたが、妻と出会ったのは、1回目の個展がきっかけでした。その個展で知り合った友人が、妻を紹介してくれて。その後、交流を徐々に深めて、結婚を前提に交際を始めたんです。彼女のお父さんも、僕のお笑いライブを見にきてくれるようになり、家族ぐるみで親睦を深めていきました。

 

── 独身時代は、特性からくる言動がネックとなり、共同生活に難しさを感じていたとうかがいました。結婚生活においては、自閉スペクトラム症の特性からくるこだわりなどで、ケンカやすれ違いはありましたか?

 

たいぞうさん:芸人として駆け出しのころ、先輩の部屋に居候させてもらっていたことも多かったのですが、1年も経たずに「出ていってくれ」と言われて、転々としていました。今振り返ると、こだわりの強さや言語理解の苦手から、うまくコミュニケーションが取れなかったことが原因だったんだと思います。

 

妻との結婚生活も同様で、結婚したばかりのころはケンカばかり。「雨の日でも、数時間晴れ間があったら洗濯物を外に干したい」という僕のこだわりや、頼まれた買い物を必ず間違ってしまったりする僕の言動に、妻は困惑していました。さらに僕は「予定の急な変更」にも強いストレスを感じてしまうため、毎朝のルーティンである筋トレの最中に、妻に用事を頼まれてイラだち、ケンカになったこともありました。

 

このころは、まだ僕が発達障害だと診断されておらず、僕としては自然に振る舞っているつもりだったので、妻を困らせたり我慢させたりしたことは多かったと思います。ときには妻を怒らせてしまうこともありましたが、妻のほうから、お互いにストレスがかからないような方法を少しずつ模索してくれて。結果的に、妻が僕の特性に合った対応をとってくれるようになったため、ケンカの頻度は減っていきました。たとえば、僕は「言葉の背景」を想像することが苦手なので、妻から「これやってくれる?」と家事を頼まれても、悪気なく「自分でやったらいいやん」って返しちゃうんです。でも、妻が「私は今、これをやっていて手が離せないから、あなたにお願いしたい」などの、「お願いする理由」を説明してくれると、素直に「わかった」と行動に移せるんです。

 

今年、結婚16年目になりますが、今ではお互いにぶつかることなく仲よく暮らしています。妻も「あなたの言動の何が変なのか、慣れすぎてわからなくなってきた」と話していました。

 

── パートナーが、積極的に「理解しよう」と対応に工夫をしていったからこそ、円満な関係を築くことができているのですね。

 

たいぞうさん:そうですね。僕が「苦手」と感じることは、妻にサポートしてもらっています。お金の管理も苦手なので、家計の管理は丸ごと妻に任せています。家事についても、役割分担を明確にしたことでちょうどいいバランスがとれるようになりました。今は、トイレとお風呂掃除、それから食器洗いは僕の担当。以前こだわっていた洗濯物干しは、妻が担当してくれています。

 

僕はこれまで、他人から「アホだな」と言われることが多かったですし、僕自身もそう思って生きてきました。でも、ときには、相手を本気で怒らせてしまったり、失礼なことを言ってしまって悩んだこともあったんです。

 

だから今、自分が自閉スペクトラム症(ASD)だとわかってホッとしています。これまで指摘されてきた「変な言動」が、この特性によるものだったとわかったことで、自分を肯定できるようになりましたし、「仕方ない」と割りきれるようになったからです。自閉スペクトラム症(ASD)のことを公にした今、前よりも楽に生きられるようになったと感じています。

 

 

たいぞうさんは、自閉スペクトラム症(ASD)の診断を公表して以降、働き方だけでなく「生き方」そのものが変わったと話しました。「絵の表現力を高め、同じ特性を持つ誰かを勇気づける存在になるためにも、自分自身が幸せでいたい」。自身の特性と向き合えたことで、たいぞうさんの人生はよりよい方向へと変化しています。


取材・文/佐藤有香 写真提供/たいぞう