2024年に、神経発達症の一種である「自閉スペクトラム症(ASD)」と診断を受けた芸人のたいぞうさん。こだわりの強さや言語理解の困難などの特性を持ち、これまで、人間関係で数々の苦労を経験したそうです。しかし、特性が色濃く出たおかげで成功につながった経験もあって── 。(全3回中の1回)

「カップ麺買ってきて」と五千円札を渡されたら

たいぞう
20歳ころのたいぞうさん。先輩芸人からは「おもしろいやつ」とかわいがられていた

── たいぞうさんは、神経発達症のひとつである「自閉スペクトラム症(ASD)」と診断されました。自閉スペクトラム症(ASD)は、特性やその程度には個人差があるそうですが、たいぞうさんはどのような特性を持っているのですか?

 

たいぞうさん:僕の場合は、こだわりが強く、決まったルーチンを乱されることに強いストレスを感じてしまいます。ほかにも、興味があるものに対しては没頭し、興味がないものにはまったく関心を示さない極端な特徴もあり、人間関係においても、よく話せる人とまったく話せない人にわかれてしまいます。

 

また、言語理解にも苦手があり、人からの指示や説明の中にある余白部分を、自分の解釈で埋めてしまうため、トラブルになってしまうことが少なくありません。

 

──「自分の解釈で埋めてしまう」というのは…?

 

たいぞうさん:言葉の背景を想像することや、行間を読むことが苦手なんです。若手芸人のころ、先輩から五千円札を渡され「カップラーメンを買ってきて」と頼まれたことがありました。僕が五千円ぶんのカップラーメンを買って戻ったら、先輩は「なんでこんなに買ってきたの!? 1個で十分だよ」って。

 

ほかにも、先輩のマンションに同居させてもらっていたとき、何回聞いても玄関のオートロックの暗証番号を忘れてしまうものだから、先輩から「メモしておけ」と言われて。そう言われた僕は、マジックペンで玄関先に暗証番号をメモしてしまって、泥棒に入られたこともありました。

 

決して笑いを取ろうとしていたわけじゃないんです。でも「カップラーメンをひとつ買ってきて」とか、「暗証番号をノートにメモしておいて」など、詳細に指示してもらえないと、僕なりの解釈をしてしまい、相手が意図した行動がとれないんです。

 

── そのような行動に、周囲はどのような反応だったのですか?

 

たいぞうさん:「おもしろいな」「天然やな」って言われて、かわいがられることが多かったです。ただ、つき合いが長くなってくると、「こう」と決めたら意見を曲げられないこだわりの強さが起因して、関係がこじれそうになったこともありました。僕から先輩に「ネタについてアドバイスしてほしい」と申し出たにもかかわらず、そのアドバイスに納得ができないと「違うんじゃないか」と反論してしまったりして…。白黒はっきりつけたがり、曖昧さを受け入れられないのも、あとになって僕の特性の一部だとわかりましたが、相手を不快にさせてしまったことも少なくありませんでした。