耳が聞こえない両親に彼が寄り添ってくれた
──「紹介しても大丈夫かも」と考えるのは、ご両親に合わせるのに何かためらう理由があったのでしょうか?
大屋さん:私の両親は耳が聞こえないんです。だから実家では手話で話をしていました。20代のころ、私には結婚を考えている彼氏がいたのですが、その人の祖母に「ご両親の耳が聞こえないなら、結婚は絶対ダメ」と、猛反対されたことがありました。それまでは、両親ががろう者であること、結婚に影響するとは想像もしていなくて。でも、気にする人はいるんだなと学びました。だから婚活をしていても、「相手にどう伝えたらいいんだろう」というのはいつも考えていました。
私は両親のことをSNSで公開していました。手話を身近に感じてもらおうと 、いろいろ発信していたんです。彼はそれを見てくれていて、自分のおばあちゃんの耳が聞こえないことや、彼自身が手話に興味があることを伝えてくれました。それで「この人だったら大丈夫」と思えたんです。ところが、両親に「結婚を考えている人がいる」と伝えたところ、母から猛反対されてしまいました。
── 反対の理由はなんだったのでしょうか?
大屋さん:彼が熊本出身だったことが理由です。いずれ彼が本土に戻ったとき、結婚して私も一緒についていくことになったら、両親とは離れて暮らすことになります。私が遠い土地に住むことがすごく心配だったみたいです。ちょうどそのころ、彼に転勤話が持ち上がりました。そのため、彼は私との将来を考え、勤め先を辞めて沖縄の企業に転職してくれたんです。その覚悟が私はとてもうれしかったです。母も、彼のその姿勢を知って、気持ちが少しずつほどけ、結婚を承諾してくれ、2024年9月に入籍しました。
── 結婚後、ご両親と夫さんとの関係はいかがですか?
大屋さん:私の両親の第一言語は手話言語。音声言語の日本語は不得意です。だから夫とも、最初のうちはコミュニケーションに苦労していました。手話言語と音声言語の日本語って、まったく違う「言語」なんです。健聴者の場合、日本語が話せても手話は勉強しないと理解できないじゃないですか。それと同じようにろう者も、音声言語の日本語が理解できていないと、わからない場合があります。とくに両親の世代だと、日本手話しかわからないろう者もけっこう多くて。
だから、結婚当初は夫の口の動きを両親が読み取ったり、簡単な話は筆談で行ったりしていました。夫は今、一生懸命手話を勉強しています。最近では父と夫のふたりで出かけることも多くて、気持ちが通じているみたいです。
私自身は、結婚してもとくに大きな変化は感じません。それって彼と一緒にいるとムリをしないで、ありのままの自分を出せることだと思います。これだけ自然体でいられるパートナーに出会えて、本当によかったです。
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耳が聞こえない両親のもとで育ち、3歳から手話で両親をサポートしてきた大屋さん。思春期には周囲の目を意識し、手話が恥ずかしいと思ったこともあったそうです。でも、そうした経験を乗り越えたいまでは、健聴者とろう者をつなぐ役割がしたいと願っているそう。自身が立ち上げた「劇団アラマンダ」では、手話とお笑いを融合させた活動を続けています。
取材・文/齋田多恵 写真提供/大屋あゆみ