高校の寮生活で知った「食事とお風呂」の幸せ
── 想像を絶する生活ですが、環境が変わった時期はあるのでしょうか?
りっぺさん:高校進学する際、祖父母に相談したところ、全寮制の高校があると教えてくれて、お金などを工面してくれました。父は女性との同棲を繰り返すなかで祖父母とケンカして「連絡をとってはいけない」と言われ、なかなか会えずにいたんです。でも、ふたりはずっと私たちのことを心配してくれていました。
寮で過ごした高校時代はとても楽しかったです。食事がきちんと出て、明るくて暖かい部屋で過ごせ、お風呂にも入れます。当たり前だと思われるかもしれませんが、私にとってはこれまで求めていてもかなわない、心の底から安心できる生活でした。無事に高校を卒業し、現在はお笑い芸人として活動しています。コンビを組んでいる相方と結婚もして、おだやかな日々を送っています。

── 現在のりっぺさんが幸福そうで、本当によかったです。
りっぺさん:私は家族との縁が薄いです。実の母の記憶はないし、一緒に暮らしていた弟はグレて音信不通。父も今どうしているのかまったくわかりません。こういう状況だから、中学生くらいのときは「生きるのは、とてもつらくて大変なこと」と思っていたんです。でも、今振り返ってみると、たくさんの人から親切にしていただきました。どん底生活だと思っていた時期でさえ、人の優しさに触れた記憶がたくさんあります。そのことに気づいたとき、「もしかしたら私の人生って、はたから見たら困難な状況でも、人からの親切など、素敵で温かいもので構成されているのかもしれない」って、感動しました。
だから、私はこの先の人生も絶対に楽しくなると信じています。父には苦労させられたけれど、そのぶん、ほかの人からたくさんの優しさを受け取りました。「傷つけてくれるのは人だけど、救ってくれるのも人」なんだなと感じます。私に関わってくれた人たちすべてに感謝の気持ちでいっぱいです。
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貧乏で食べるものがなくて、ガスや電気が止められても幼少期を懸命に生きてきたりっぺさん。借金取りの人までお手製のおにぎりを持参するほど、不思議なくらい人には恵まれていました。いま39歳になったりっぺさんは最愛の相方と出会い、2017年には交際ゼロ日で結婚。公私共に充実した生活を送っています。
取材・文/齋田多恵 写真提供/りっぺ