40歳を過ぎて活動を始め、初めて当事者の仲間と出会えた

── 40歳を過ぎるまで、幼少期からのご経験をおひとりで抱えていたのですか?

 

丘咲つぐみ
「日本トラウマティック・ストレス学会」学術総会に登壇した際の1枚

丘咲さん:自分自身、虐待に遭ったことをカミングアウトしていなかったので、情報が何も入ってこなかったんです。どこで当事者とつながれるのかもわからなかったですし、つながる必要性も感じていませんでした。今思えば、もっと早くに、同じ痛みを知る人とつながりをもてていたら、どんなによかったか…と思います。

 

トラウマ専門の治療があることすら、40歳を過ぎるまで知りませんでした。税理士の仕事をしていたので、いっけんは問題ない人に見えていたかもしれませんが、私の内側は全然そうではなくて。ずっと「死にたい」気持ちが消えず、いつ死のうかと考え続ける日々が続いていました。そんなときに私の考えを根底から覆すメンタルトレーナーの方と出会うことができて。ようやく自分を受け入れ、認められるようになったと思います。

 

── 本当に大切な出会いを経験されたのですね。そんな人々との出会いを経て、今はご自身で虐待当事者の方を支援されていますが、活動で大切にしていることはありますか?

 

丘咲さん:つながってくれた人たちには、まず「ありがとう」という気持ちです。人に繋がることにとても大きな恐怖を抱えるなか、それでも勇気を振り絞ってつながってくれたこと、そして、その瞬間まで生きてきてくれたことへの「ありがとう」です。「そばに一緒にいる」のではなく、ただ「ともに生きる」という思いで「横を歩いている」感覚です。

 

よく「虐待を受けている子どもたちは『助けて』の声が出せない」と言われますが、いちばん大事にしてもらいたかった親からていねいに関わってもらえなかった経験、大人たちに裏切られた経験があるからだと思っています。たぶん、その先でもいろんな人に裏切られたりしながら、孤立したままずっとひとりで頑張ってきた。そういう人がほとんどだと思うんです。

 

そんななかで、私たちのようなところにつながるって、本当にどれだけ不安で怖かったか…。やっとの思いで私たちのところに来ようと決断したはずです。いつもそんなことを思うので、まずは私たちの場所の扉を開いてくれたことに「ありがとう」という気持ちはつねにあります。

つながることを諦めないで

── 虐待サバイバーでありながら、ご自身も1児の母でいらっしゃいます。子育て中の方、特にうまくいかず苦しんでいる人にどんなことを伝えたいですか? 

 

丘咲さん:「つながることを諦めないでほしい」と思います。子育て中だと、本当は誰もが悩んだり落ちこんだりすることもあるのに、「自分の悩みを話しても、結局わかってもらえない」と思ってしまうことがあります。「母親ならできて当たり前」とか「ほかのお母さんも頑張っているのに、頑張れない自分がダメ」とか思うかもしれないけれど、みんな悩んでいるし、たまたま相談した人がわかってくれなかったとしても、必ずわかってくれる人がいるはずです。そういう人に出会えるまで、どうか諦めないでほしいです。

 

ひとりとつながることができたら、その人からその先にいる、信頼できる人にもきっとつながることができます。私は、つながることを諦めて切り捨ててきたんです。友人もひとりもいませんでした。だけど、それでもつながることを諦めないでいたら、回復はもっと早かったと思います。そして、今、人とつながることの大切さを何よりも感じているのです。何かの解決そのものよりも、人とつながっていることが、何よりも大切だと思います。

 

それと、自分をいちばん大切にしてほしいですね。特に30代から40代は忙しさがピークな世代だからこそ、自分の好きな時間を大切に過ごしてほしいです。お母さんが自分を大切にして楽しそうにしていることは、子どもにとっても安心で、子どもの笑顔にもつながりますから。

 

取材・文/高梨真紀 写真提供/丘咲つぐみ