「子宮を失っても性交渉はしなきゃ」に

──がんを経験してから20年。原さんがSNSに投稿した言葉が、大きな反響を呼びました。飲みの席で男性から「子宮を失っても性交渉はしなきゃダメだぞ」と言われ、その場で泣いてしまった体験をつづったものです。とてもデリケートな出来事だと思いますが、あらためて当時のことをうかがってもよろしいでしょうか。

 

原さん:正直、あんなに大きな話題になると思わずにつぶやいたんです。相手は私よりだいぶ年上で、お孫さんもいるような男性。悪意があったわけではなく、よかれと思って口にしたのでしょう。でも私にとっては、いちばんデリケートで触れられたくなかった部分に土足で踏みにじられたような気がして、ものすごく堪えました。私自身、夫に対してどこか申し訳ないという思いを抱えていたので、そのもろいところを突かれて、思わず感情的になってしまったんです。

 

でも、それ以上にショックだったのは、後日「こいつはすぐ泣くから」と茶化されたことです。自分のこともそうですが、もし同じように傷を抱える女性がこんな言葉を投げかけられたらと思うと、許せない気持ちになりました。今ではもう縁がきれていますが、当時を思い返すとやはり悔しさが残ります。もし今だったら、もう少し冷静に言い返せたかもしれません。病気をして長い年月が経ちましたが、今もあの出来事は心のしこりとして残っています。

 

──これまでの年月を、今どのように受け止めていらっしゃいますか?

 

原さん:「長かったな」とか「アッという間だった」という感覚はないんです。病気は人生の途中にあって、たしかに大きな影響を与えましたが、がんが人生の中心にあったわけではありません。むしろ自然に歳を重ねてきた。そんなふうに受け止めています。

 

ただ、病気の後遺症とはいまも向き合っています。2年前には、リンパ浮腫を発症しました。最初は「足がむくむなあ」という程度でしたが、普通のむくみとは違って、一部がブヨブヨと腫れるような感覚があったんです。これはおかしいと思い、専門の外来を受診したところ「リンパ液が漏れています」と診断されました。それからは医療用の弾性ストッキングを日常的に着けています。昼間は欠かさず履き、寝るときだけはずす生活を続けることで、なんとか症状をコントロールしてきました。ただ、今年に入って少し悪化してきたため、8月にはリンパ管と毛細血管をつなぐ手術を受けました。まだ軽症ですが、放っておけば悪化するものなので、維持療法を続けながら暮らしています。

 

でも、それもまた自分の人生の一部。病気とともに生きる日々も、私にとって大切な時間なんです。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/原千晶