「約20年かかった病名」私は31歳になっていた

── そこでようやく「慢性疲労症候群」と診断されたのでしょうか?

 

こんどうさん:いいえ。最初は体の痛みにばかり注目され、「線維筋痛症」と診断されました。体の痛み、めまい、嚥下障害、息苦しさ、頭痛、腹痛など、私の抱えている症状に合致していました。でも、投薬治療を行っても、倦怠感から体が動かなくなるのは変わりがありませんでした。主治医はていねいに向き合ってくれましたが、症状はなかなか改善されなくて…。

 

自分で調べて、ようやく「慢性疲労症候群(筋痛性脳脊髄炎)」ではないか?とたどりついたんです。専門医がいると知って大阪の病院に行き、症状を話しました。すると医師も看護師も否定することなく、「わかります」とうなずいてくれたんです。これまで周囲から理解されなかった症状を受け入れてもらえ、泣きそうなくらいうれしかったです。異変を感じてから約20年経ち、ようやく慢性疲労症候群と診断されました。そのとき私は31歳になっていました。

 

慢性疲労症候群は名前に「疲労」がつくため、「ただ疲れているだけ」「休めば治る」と誤解されがちです。でも、病気にかかった人の3割はほぼ寝たきり、もしくは、それに近い症状におちいって日常生活もままなりません。そこで、近年は「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群」が正式名称になっています。「筋痛性脳脊髄炎」と呼ばれることもあります。

 

── 慢性疲労症候群は治療法がない難病とのこと。診断されてどんな気持ちだったのでしょうか?

 

こんどうさん:病気だと宣告されるとショックを受ける場合があるかもしれません。でも私は、診断されて本当にホッとしました。「体調がずっと悪かったのは、自分の甘えではなく、明確な原因があった」とわかったからです。それに、ずっと体調不良に悩まされてきたから、自分の中で折り合いがついていたのかもしれません。

 

根本的に治療する方法が確立されていないと聞いても、落ち込むのではなく「病気と闘うのはやめよう。うまくつき合って、充実した人生を送ることにフォーカスしていこう」と気持ちを切り替えることができました。

 

──「病気と闘う」のではなく、折り合いをつけていくことにしたのですね。

 

こんどうさん:もちろん治療方法が確立されている疾患であれば、少しでも改善させたり、治したりするために頑張ることは大事だと思います。でも、完治するかわからないのであれば、いい意味で「あきらめる」のが、充実した人生を送るために必要なのかなと感じています。たとえば外出する際、私は徒歩で移動すると疲労で動けなくなってしまいます。だったら最初から車いすを使ったほうがスムーズです。「どうしてほかの人みたいに歩けないんだろう。もっと動けるようにしなくては」といった考えを手放せば、ほかのことに時間や体力が使えるんです。

 

同じ理由で、自宅にいるときもほとんど介護ベッドで寝たきりです。「できないことはできない」とあきらめることで、精神的にも体力的にも余裕ができ、やりたいことに力を入れることができる 。私はパンダが大好きで、実際に触れてみたいと夢見ていたことがあります。中国に行くと、パンダのお世話ができるボランティアがあります。私の体力では難しいかも…と思っていたのですが、1日のうちで動ける時間を考え、できないことはやらないとあきらめたおかげで、参加することができました。

 

「とても前向きですね」とよく言われるんですが、私は決してポジティブなわけではなく、人より体力がなくて動けない現実を受け入れているだけ。そのうえで、どうしたらやりたいことができるか考えます。とても合理的かもしれません。

 

仕事も自分ができることを模索しています。これまで動物病院や保健所での勤務を経験しましたが、立ち仕事などは私には厳しくて…。現在は自分の得意なことを仕事にしていこうと考えました。ずっとイラストを描いたり文章を書いたりするのが好きでした。それを活かして、現在はライターやイラストレーターとして活動しています。

 

こんどうなつき
介護ベッドで横になりながら在宅で仕事をする

── 病気と上手につき合って、充実した日々を送っているのですね。

 

こんどうさん:「難病と共に働いている、働こうとしている人たち」のことを「RDワーカー」といいますが、この言葉が広がることを願っています。フルタイムで働くのは難しくても、勤務時間や労働環境を整えれば力を発揮できる人がたくさんいるんです。

 

私も獣医師としての知識をイラストや文章で表現しています。ほぼ寝たきりの私でも仕事ができることを、活動を通して伝えていきたいです。「仕事をして社会に貢献したい」という思いを抱いているのは、難病者もそうでない人も一緒です。働きたいと願う人が活躍できる場所が増えていけばいいなと思っています。

 


 

現在は夫と娘の3人で暮らすこんどうさん。難病を抱えていることで一緒に走り回って遊んだりすることはできないものの、反対に「子どもを待つ」ということは苦にならないそう。体調不良とつき合ってきた経験が「子どものペースを尊重できる」育児につながるとは思ってはいなかったそうですが、家族とのかかわりのなかで、自身の強みや役割を教わっていると感じているそうです。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/こんどうなつき