介護は「まずお金」きれい事では済まない現実

── お母さんは要介護5だったということですが、行政の支援補助などはなかったのでしょうか?

 

藤さん:支援は多少あったとしても、それですべてをまかなえるわけではありません。母を自宅介護するにあたって、家のリフォームをして、かかったお金は100万円弱。それに対して、実際に支給されたのは18万円くらいです。それ以外にも、介護にはいろいろな福祉用具が必要で、借りるにしても買うにしても、お金がその都度かかってきます。

 

介護ベッドは、支援限度額を上回る自己負担金が毎月2万円あったため、母が長生きするなら買ったほうが安いと考えて、思いきって買っちゃいました。50万円くらいだったと思います。専門的なお医者さまや介護の方、ヘルパーさんなど、人の手を借りなければひとりでは介護はとてもムリなのですが、頼むとその都度お金がかかります。

 

母が亡くなるまで、うちの預貯金の範囲でなんとか持ちこたえましたけど、母がもっとひどい状態で生き延びていたら、破産していたかもしれません。当時、介護中の方がお母さんを連れて無理心中をした事件が報道されましたけど、本当に人ごとではないなと思いました。テレビの介護特集で「ひとりで抱え込まないで」「こうしてあげると喜びます」なんてやっているのを見ていると、きれい事だなって思ってしまいます。介護は莫大なお金がかかる。それが介護の現実。真っ先に考えるべき問題は、お金なんです。

 

 

俳優業に追われ、身の回りのことを任せていた母が倒れたことで、自宅介護をしながら家事もゼロから始めなければならなかったという藤さん。母の介護で以前のような外出も難しくなり、仕事も失ってしまいます。それでも「いちばんいい形で母を介護したい」という思いを抱え、11年間に及ぶ介護生活を続けてきました。改めて、当時を振り返り「現状維持でも十分だったけれど、具合がよくなると欲が出てしまう。毎日を穏やかに過ごしているだけでよかったんですよね」といま感じているそうです。

 

取材・文/小野寺悦子 写真提供/藤真利子