受験は断念したけれど「人生が変わった」
── 受験勉強は8年続けたそうですが、受験を断念したのはなぜでしょうか?
山田さん:全力で努力した結果、自分の限界がわかったんです。僕の最高点は698点。それ以上の点数はどうしてもとれなかった。東大に行く人たちとは「勉強の才能」が違うんだなと感じました。彼らは「ガリ勉」をしない。テストをゲーム感覚で楽しめてしまうんです。僕とはレベルが違うと感じました。
それでも番組の企画で2年間、その後の自主的に6年間、勉強を続けました。番組のなかで2年目から家庭教師をお願いした方に、個人的に家庭教師を依頼して勉強に励みました。家庭教師代は高額でしたが、全力でやりきった達成感があります。あの時間は本当に貴重なものでした。
自分の限界まで努力したと思うから、いまは東大にまったく未練もありません。不思議なことに学歴コンプレックスもなくなりました。以前は、共演者の方で高学歴の人がいたら「すごいな」と思いがちでしたが、いまはいっさいないんです。全力で勉強したことが自信になっているんですね。それに、東大受験に取り組んだおかげで、人生そのものが変わりました。
── どのように変わりましたか?
山田さん:僕は2009年から「かたり」というひとり舞台に取り組んでいます。これは芝居でもなければ朗読でもない。取材を重ね、現地を訪れ、俳優やスポーツ選手の人生に迫るんです。 僕のライフワークだと思っています。この芸を確立することができたのは、東大受験をしたおかげです。受験勉強で論文を書いたり、これまで苦手だった数学を学んだりしたことで、論理的な考え方が身につきました。そのおかげで芸が広がったというか。好きなことだけをしていたら、絶対にたどりつかなかった世界だと思います。
受験をするかどうか迷ったとき、妻に「好きなことだけしていたらバランスが悪い」と言われたのは、いま考えたらそのとおりでした。苦手なことに全力で取り組んだからこそ、学ぶものは多かったです。新しい世界がひらけたと思います。もし子どもたちに、この方法で「勉強っておもしろいんだよ」と伝えられたら、勉強に夢中になる子もけっこう増えるんじゃないかなと思います。
取材・文/齋田多恵 写真提供/山田雅人