便秘でお腹が張っても気づかない母に…
── おむつ替えなど、排泄のお世話もされていたのですね。
山田さん:便秘になると、お腹が張って苦しいじゃないですか。でも、認知症が進んだ母は、便秘になっても苦しさの原因が理解できずにいました。理由がわからないけれどお腹は不快だから不機嫌で。それを妻に相談すると、いらなくなったTシャツを切ってはぎれにしてくれました。「これをお湯につけて、お尻の穴を優しくマッサージしてあげるといいよ」と教えてくれるんです。それを聞き、手袋をして母にしてあげると、便が出ました。スッキリして気持ちがよかったようです。
妻の支えは本当に大きかったです。僕が大阪に行くたびにお弁当を作ってくれ、いつもアドバイスをくれました。妻自身が若いときに自分の両親が病床についてしまいました。亡くなるまで介護をしていたんです。だからとても細やかな気配りをしてくれたんです。
── ご家族のサポートがとても大きかったのだと伝わります。
山田さん:年齢を重ねて認知症になった母は、日常生活も誰かのサポートが必要になりました。だから僕は母のことを「見た目はおばあちゃんの赤ちゃん」と思うようになりました。赤ちゃんだったらお世話をしてあげないといけないと感じるじゃないですか。母はだんだん生まれたころに戻っていき、赤ちゃんのようになっていく。だったらお世話してあげないと、と思うんです。
わからないことが増えていったとはいえ、やっぱり「母親」なんですよね。夜は床ずれが起きないよう、何度も寝返りをさせる必要があります。夜中に何度も起きては母を抱き起していたんです。すると母は「あんた、顔色悪いな。大丈夫なんか?」と言うんです。いやいや、それは介護で寝不足だからだよ、と思いつつ、やっぱり気づかってくれるとうれしいものでした。
母はコロナ禍で施設に入ることになり、2023年に90歳で亡くなりました。もしコロナがなければ、もう少し一緒にいられたんじゃないかなとも思います。それでも晩年の母と一緒に過ごしたことで、たくさんのことを学びました。介護はもちろん、家事や何事も全力で楽しむといった心の持ちようなどですね。本当に母は「最後の子育て」をしてくれたんだなと感謝の気持ちでいっぱいです。
…
認知症を患った母親の介護を通じて、最後の親孝行をした山田雅人さん。あるとき母のハンドバッグの中に口紅があるのを見つけ、塗ってあげたところ、母親はたいそうご機嫌になったそう。さらにデイサービスのスタッフの提案を受け、マニキュアを塗ってあげたら、満足そうに手を眺めていたそうです。ちょっとしたことでも介護スタッフの方と共有をし、一緒に乗り越えてきたからこそ、8年間の介護生活を乗り越えられたと実感しているそうです。
取材・文/齋田多恵 写真提供/山田雅人