介護はつらい。認知症を患えば、徘徊もあるし癇癪を起こされる。「でも」と、タレントの山田雅人さんは言います。介護を「親による最後の子育て」と思った瞬間から、つらい景色は一変します。そこには、多くの人に知ってほしい、新たな気づきがありました。(全4回中の2回)
介護を通して認知症の母が教えてくれたこと
── 認知症と診断されたお母さまの介護のため、東京を拠点にタレント活動をしていた山田さんは2015年から8年間、大阪と東京を行き来していたとのことです。体力的にも精神的にもかなりハードな日々だったのではないでしょうか?
山田さん:やっぱり大変でした。大阪に行ったときは、母のおむつ替えなどのお世話や家事もすべて担っていましたから。でも「つらい」と思ってしまうと、気持ちや体がもたなかったと思います。ネガティブな気持ちにとらわれないように意識はしていました。それにだんだん介護の機会を与えてもらったことに、感謝の気持ちさえ抱くようになりました。というのも「介護を通して、母は最後の子育てをしてくれているんだ」と感じるようになったからです。
──「最後の子育て」とはどういう意味でしょうか?
山田さん:それまでの僕は、掃除や料理をほとんどしませんでした。でも、母が認知症になり、お世話をすることになったことで、家事ができるようになりました。これって母が介護を通して教えてくれたことではないかと感じます。それに僕だって、赤ちゃんのころは母に全部お世話してもらいました。おむつを替えてもらったし、身の回りのことは全部親がしてくれたんです。年を経て、これまで母にしてもらったことを「すべてお返ししているんだな」と、思うようになりました。

── とても素敵な考え方だと思います。
山田さん:もちろん体力的に大変なことはたくさんありました。母は昼夜の感覚がわからなくなり、夜中に徘徊しようとするんです。目が離せないから、介護する僕は睡眠不足でヘトヘトになります。そのため母を、昼間にできるだけ活動させ、夜中は疲れて眠るようにしました。一緒に散歩へ行って「万歩計で3000歩」歩くのを目標にしていましたね。
あとは、母を楽しませると同時に、僕自身が休息をとるために映画を観に行きました。記憶力が低下していた母は、複雑なストーリーは追えません。でも「1シーンごとの瞬間」は楽しむことができます。だから、トム・クルーズの『ミッション・インポッシブル』やウィル・スミスの『アラジン』など、動きが活発な映画は熱心に観ていました。映画を観ている間、デートみたいに手をつないでいました。そうすると母は安心していたみたいです。上映中、僕は眠ることできて、ふだんの睡眠不足を補えたんです。