「うちは階段があるから無理です」と断られて

── 幼稚園はスムーズに決まりましたか?
柴田さん:やっぱり大変でした。寝たきりの状態から身体機能が上がったとはいえ、幼稚園に「息子は脳性まひで歩けません。車いすに乗っていますが大丈夫ですか?」と電話で聞くと、「うちは階段があるから無理です」と、3、4軒は断られました。いちばんツラかったのは、幼稚園に見学に行って、園長先生とお話をしたとき。「息子さんは、本当に幼稚園を望んでいるんですか?親のエゴじゃないですか?」と言われて、「行かせるべきじゃないのかな」と考えこんでしまいました。それまで息子のことで泣いたことはほとんどなかったんですけど、つい涙が出てしまって…。
でも、あるとき別の幼稚園に見学に行き、同じように息子の状態をお話ししたんです。脳性まひで、車いすを使って…とすべてお話ししたら、園長先生が「その何が問題なんですか?世の中にはいろいろな病気を持った人がいます。心臓が悪い人もいるし、肺が悪い人もいます。息子さんは、脳性まひなだけですよね」と言ってくださって。ここでもまた涙を流すことになりました。結局、この幼稚園で2年間お世話になりましたが、園長先生をはじめ、ほかの先生方もすばらしい先生ばかりで、今でもとても感謝しています。
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脳性まひの息子のリハビリなどにつきっきりで対応してきた柴田さんですが、その間、親族の家に預けていた長女に異変が起こります。久しぶりに会った長女の顔を見ると、まつ毛がなかったのです。寂しさやストレスからか、自分で抜いてしまったという娘。これを機に、柴田さん自身も気持ちを切り替え息子だけでなく、娘たちとも会話の機会を増やしたことで、長女の気持ちは徐々に安定していったそうです。現在は家族5人、鹿児島で幸せに暮らしています。
取材・文/松永怜 写真提供/柴田直美