元・体操選手の内村航平さんの母・内村周子さん。子どもたちをほとんど叱らずに育ててきたそうですが、その裏には「厳しさよりも怖さを感じた」という実母の影響もあったそうです。(全2回中の2回)
今でも1度だけかわいそうなことをしたと思う

── 息子で元体操選手・内村航平さんは、オリンピック4大会出場するなど華々しい活躍を遂げた後、2022年、33歳のときに現役を引退されました。航平さんは3歳から体操を始めましたが、小学生になると体操の練習と共に学校の勉強も頑張っていたそうですね。
内村さん:私から「勉強しなさい」と言ったことは1度もないですが、毎朝6時半くらいから私と一緒に30分程度勉強して、朝食を食べた後に学校に行っていました。夜は9時くらいまで体操の練習をして、10時半には布団に入り、朝6時くらいに起きてから勉強する、というサイクルだったと思います。
── 内村さんは航平さんに対して「褒めて育てる」タイプの母親だったとか。
内村さん:私は子どもをほとんど叱らないで育てたつもりです。でも、今でも1度だけかわいそうなことをしたな、と思うことがあるんです。航平が小学1年生のときのことです。いつものように一緒に勉強していましたが、私が一瞬、目を離したときに航平がノートに書いた字が、すごく汚かったんです。国語の宿題だったと思いますが、「こんな汚い字で書いたら先生もうれしくないよ」と言って、彼が書いた字を消しゴムで全部消したんですね。そしたら「ウワァっ」って泣き出して。
夫も横から「そこまでしなくても…」と言っていましたし、私も航平が泣きだしたり、夫の反応をみてかわいそうだなって思いました。でも、「この子のためだ。ここで1回、流してしまうとそれでいいと思ってしまうんじゃないか」と思ったんですよね。心を鬼にして「こうちゃん、きれいに書こうって約束したでしょ。ママが『まぁいいや』って許したら、また同じことすると思うんだよね」と伝えて。その後、学校まで時間はギリギリでしたが、航平が頑張って書き直して、遅刻しないようにその日は車で送って行きました。でも、勉強で何か言ったのはそれくらいだったと思います。
── 体操に関してはいかがでしたか?みずから練習に励んでいたのでしょうか?
内村さん:体操も自分から練習していましたが、航平が子どものころは、内気で人見知りする性格でしたし、試合では本領をなかなか発揮できませんでした。小学1年生のときにはじめて出た試合では、「チアノーゼ」と言って極度の緊張があるときに唇が紫になることがあるんですけど、その症状が出ていたし、緊張で歯がガタガタしている音が聞こえました。結果は最下位でした。2年生のときも実力が出せず、3年生のときは床の運動で入れなければならない技を忘れる。4年生のときは着地でバランスが狂う。でも、小学5年生になるとちょっと頑張り出したんです。
夫も体操選手でしたが、夫がインターハイで取った金メダルを見てから急に「こうちゃん、頑張る」と言い出して、ギアを入れ替えたんですよ。もちろん以前から頑張っていましたが、男の子ってどこかで父親を抜きたいと思うものなのでしょうか。そこから急に本気度が上がって、結果を残していったと思います。