体の筋力が低下していく難病「筋ジストロフィー」と向き合う小澤綾子さん。体に違和感を覚えたのは小学4年生のころでした。(全3回中の1回)
「人と違う私は恥ずかしい存在」と泣いていた
──「筋ジストロフィー」は、筋肉が徐々に衰え、筋力が低下していく難病です。小澤さんが、体に違和感を覚え始めたのはいつごろでしたか?
小澤さん:最初に違和感を覚えたのは小学4年生のころでした。「なんだか体を動かしにくいな」と感じるようになり、走るスピードも遅くなっていきました。体育の授業で1000メートルを走ったときも、自分だけ1周遅れになってしまうくらいのスピード感。自分では一生懸命走っているつもりでも、周りから見たら「歩いている」ように見えたようで、クラスメイトからは「ちゃんと走れよ」「サボるなよ」などと心ない言葉を向けられたこともありました。学校の先生からも「真面目に走りなさい」と言われたこともあり、「もっと頑張らなきゃ」と感じていました。

──「走る」という動作以外で、動きにくさは感じていましたか?
小澤さん:歩き方も独特でした。足の筋肉を補おうとすると、肩をゆするような歩き方になってしまうんです。同級生にからかわれることが多く、「変な歩き方がうつるから、こっちに来るな」と言われたことも。自分の歩き方や走るスピードについて、疑問を感じてはいましたが、それ以上に「ほかの人と違う」ということに恥ずかしさを感じていて。「人と違う私は、なんて恥ずかしい存在なんだろう」と、家に帰って布団の中で隠れて泣いていました。
── 症状について、両親に相談したことはありましたか?
小澤さん:親に心配をかけたくなかったので、体の違和感や、同級生からからかわれていることを相談したり、つらい気持ちを打ち明けることはしていませんでした。両親も「走るのが遅くてもいいんじゃない?」と、気にしていなかったようでした。
複数の病院で検査を受けるも「病気ではない」
── 病院で検査を受けたきっかけについて教えてください。
小澤さん:病院に行ったのは中学3年生のころでした。当時「高校を推薦で受けたい」と希望していたのですが、体育の成績だけすごく悪かったので、「なぜこんなに体育の成績だけ悪いのか、病院で調べてきてほしい」と先生に言われたんです。学校からの推薦書を作るのに「体育の成績だけ悪い理由」が必要だったんだと思います。先生から言われたことで、親にも堂々と「病院で診てもらいたい」と打ち明けることができ、受診することになりました。
── 病院に行ったことで、すぐに原因がわかったのでしょうか。
小澤さん:いいえ。地域の病院をあちこち回って診てもらったのですが、原因はわからないまま…。最終的には「筋肉量や運動機能は人それぞれ。個人差によるものだろう」と判断されました。私は「何かしらの病気なんだろう」と感じていたのですが、それを認めてもらえなかったことが悔しくて。涙を堪えることができず、初めて人前で泣いてしまいました。
その後、高校は推薦で入学することができましたが、「できること」が年々減っている感覚がありました。中学校では50メートルや100メートルなどの短距離も走りきることができなくなり、高校に入るといっさい走れなくなりました。体育の時間に周りからバカにされてつらかったのですが、「休んだら負けだ」と自分を律し、休まずに授業を受け続けていました。ただ、体育祭のときだけは、本当につらくて…。地域の人たちが、好奇の目で見ているなかで走らなければならず、生き地獄のような感覚でした。