近年、落雷の発生が急増しています。命を奪われることもある雷ですが、「貴金属を外せば安全」など間違った情報を信じている人も少なくありません。落雷から身を守るための正しい行動について、防衛大学校教授の小林文明さんに聞きました。

関東地方で2倍以上、東京23区で約5倍の落雷数

2024年の夏は全国各地で記録的な落雷数を観測しました。夏は雷雲と言われる積乱雲が多い季節。内陸部において発生しやすく、昨年の猛暑により積乱雲が発達し、落雷の急増を招いたという流れです。例年を大きく上回り、関東地方で2倍以上、東京23区では約5倍の落雷数でした。

 

「今年の夏も猛暑ですから、都市部を中心に落雷が多発するのは間違いないでしょう」と話すのは、防衛大学校教授の小林文明さん。その兆候はすでに現れています。天気の急変によるゲリラ豪雨(雷雨)がニュースでひんぱんに伝えられているのは周知のとおり。実際、その被害にあった人も少なくないはずです。

 

「猛暑により上空で積乱雲が急速に発達し、短時間のあいだに激しい雨や落雷をもたらすのが近年の特徴です。都市部に出現する『都市型積乱雲』の場合は、1個の積乱雲が雲頂高く巨大化して、数千回から1万回におよぶ集中的な落雷を引き起こします」

 

そんななか死傷者を出す落雷事故が近年、報告されてきました。現場となったのは野外コンサート、お祭り、花火大会、ビーチ、学校グラウンドでのクラブ活動などのシーンです。リスクは身近なところに潜んでいるのです。

 

「落雷急増の原因は地球規模の温暖化と、都市の温暖化(ヒートアイランド)にあります。より深刻なのは後者です。世界でもっともヒートアイランドが進んでいる都市は東京なんです。地球の平均気温が過去100年余りで約0.6度上がっているのに対し、東京の場合、過去50年余りで3.0度上がっています。その要因には、エアコンなどの空調機器の排熱がひとつ挙げられます。結果、都会生まれの積乱雲は凶暴化。突如、発達するので前もって予測がしづらいわけです」

木の下の雨宿りは死傷事故と隣り合わせ

では、急増する雷にどのように対処すればよいのか。小林さんは、危険な場所には足を運ばないことが第一だといいます。

 

「野外のイベントやレジャーを予定している日が近づいたら、前の晩に天気予報を必ずチェックしましょう。当日の現地の天気について、たとえば、『大気が不安定』『上空に寒気』といった予報を耳にした場合にはいったん立ち止まり、計画を変更すること。当たり前の話かもしれませんが、それができないがゆえに事故は起きています。『夏休みを3日間とったんだから、予定は絶対に変更できない』などとかたくなにならず、決断しなければなりません」

 

落雷の遭遇に備え、正しい知識をインプットしておくことも大切です。落雷による死亡原因は開けた平地に立っていた場合がもっとも多く、次が全落雷死の半分を占めるという木の下の雨宿りです。

 

「木陰に避難すれば安全だと思いがちですが、それは間違い。樹木に落ちた雷の電流が側にいる人間に飛び移る『側撃雷』の被害を受けるからです。木の下で雨宿りしているときに発生する死傷事故のほとんどは、この側撃雷によるものです」

 

いっぽうで、アクセサリーなどの「金属製品は危険だからはずしたほうがいい」、レインコートや長靴など「ゴム製のものは安全」といった誤った情報を信じる人も多いそうです。

 

「貴金属を身につけていることと落雷の被害に関連はありません。雷は高いところに落ちるので、アクセサリーをはずしたから安心とはならないのです。最近の研究ではむしろ、金属製品に落雷の電流が流れることにより、人体のほうに流れる電流を減少させる効果がわかっています。ゴム製品については、家庭用の電気くらいであれば絶縁の働きを担うものの、雷の場合は流れる電流の量やパワーが桁違いなので効果はありません」