社会人1年生の今「みそ汁作り講座」をライフワークに
── みそ汁は、いろいろな食材と相性がよく、万能な食事という印象があります。はなさんが作ったみそ汁には、千恵さんから受け継いだ思いと、はなさんの思いが込められていたのですね。
安武さん:娘は今、みそ汁の素晴らしさを人に伝える側になっているんですよ。「私はみそ汁のおかげで病気もせず、幸せな人生を送れているから」と、台所に立つ喜びを子どもたちに知ってもらうための活動をしています。

今年4月に娘が就職した食品会社は副業が認められています。娘は、全国の学校やPTAなどから講師を依頼され、月1、2回のペースで、子どものためのみそ汁作り講座を開いています。子どもたちは行動が早い。さっそく、その日のうちに、自分で作ったみそ汁を家族に振る舞ったりするんですよ。すると、17年前、わが家の食卓で起きたことが、その子の家庭の食卓でも同じように起きる。これって、すごくないですか?全部繋がっていたんだなって思って。
── お子さんから親御さんに、みそ汁を通して無償の愛が伝わって、親御さんは「ありがとう」と感謝の言葉をお子さんに送る…素敵な輪ですね。はなさんもうれしいでしょうね。
安武さん:そんな報告を受けるたびにモチベーションが上がるようです。娘は枕崎水産加工業協同組合(鹿児島県枕崎市)から委嘱を受けた「枕崎鰹節大使」も務めていて、講座ではかつお節を削るところから始めています。かつお節の原型を見たことがない子が多いから、みんな好奇心いっぱいで、一生懸命削ってくれるんですよ。そんな交流が楽しいようで、うれしそうに北海道から九州まで飛び回っています。
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千恵さんから受け継いだ「みそ汁作り」を多くの人に広める活動を続けるはなさんですが、父が上梓した『はなちゃんのみそ汁』がドラマ化、映画化され、世間から広く知られるようになった当時はさまざまな思いを抱えていました。思春期には父と距離を置いていた時期があったものの、22歳の今はお互いをいたわり合う関係に戻れているそうです。
取材・文/高梨真紀 写真提供/安武信吾 参考文献/『はなちゃんのみそ汁』(安武信吾・千恵・はな/文藝春秋)