もう一度自信を取り戻すお手伝いがしたい

── 創業から9年間で、どれくらいの数のお客さんが来たんですか?

 

神田さん:380人ほどです。神奈川県川崎市で試着販売サロンを営んでいますが、九州など遠方から、出張や旅行のついでに来てくださる方もいます。どうしても来るのが難しい方は、リモートで試着を見させていただきながら、お届けするということもしています。胸の形は本当に人それぞれなので、既製品のS、M、Lのように、単純に大きさだけで判断することが難しく、試着していただきながら細かく微調整しています。

 

── サロンでは、がんの当事者の経験を生かして、抗がん剤治療で傷んだ肌でも使用できる市販の化粧品を紹介したりと、美容面の相談にものっているそうですね。

 

神田さん:そうですね。エステはコロナ以降お休みしているんですが、その代わり、お化粧やウィッグ購入の相談にのっています。抗がん剤で髪の毛が抜けてしまった方には、近所の美容院もご紹介させていただいています。抗がん剤を使うとどうしても爪が黒ずんだり、皮膚トラブルが出たりするんです。私は以前、美容業界にいたこともあるので、私が使ってみてよかった商品を紹介したりしています。いまはプチプラでも、けっこういい化粧品がたくさんあるんですよ。

 

眉毛が抗がん剤で抜けてしまった方には、顔立ちに合った眉毛の描き方を教えたりもしています。それぞれお客さまの悩みに合わせて、私にできることはさせていただいています。

 

── 美容業界のご経験も生きているんですね。見た目を整えることによって、お客さんの表情は変わりますか?

 

神田さん:それはすごく変わりますね。みなさんにこやかになりますし、自信が出ますよね。胸がなくなった喪失感から、女性としての自信を失ってしまう方は多いですが、もう一度自信を取り戻してもらうお手伝いができるのはすごくうれしいことです。 

 

── これからの夢や目標はありますか。

 

神田さん:もう少し事業を拡大して、がん闘病中の方などで正社員として働けない方を雇用したいと思っています。あと、今日新聞で読んだのですが、今年6月から川崎市で、抗がん剤で髪が抜けてしまった人に対して、ウィッグと乳がん術後の補正下着の購入費を助成する制度がスタートしたそうです。

 

がん治療を経て外見が変わってしまった人への支援の大切さについて、少しずつ認知が広がってきたように思います。今後、私も活動を発信し続けることで、がん患者の社会復帰支援に力を入れる自治体が少しでも増えるといいなと思っています。

 

取材・文/市岡ひかり 写真提供/神田文子